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ロレックスからリシャール・ミルまで、歴代マスターズ優勝者のベストウォッチを紹介。

マスターズ・サンデーは、全スポーツカレンダーのなかでも最高の日のひとつだ。私は子供の頃からゴルフをやっていたが、今は時計が仕事になっている。そしてマスターズ・サンデーには優勝者の時計を見分けるという、もうひとつのスポーツもある。時計ブランドが、ゴルフのスポンサーになることに全力を挙げているのだ。ロレックスは男子4大メジャー大会のすべてを後援しており、ロレックス、オーデマ ピゲ、ウブロなどのブランドは、ラウンド後に素早く時計を身につけ、ラウンド後の活動やインタビュー、そして願わくばトロフィー授与の際にカメラ前でつけてくれるアンバサダーを数多く抱えているのである。

 今年は嵐の影響でマスターズの終了が遅れているため、過去のマスターズ優勝者のお気に入りの時計をいくつか振り返ってみることにした。私たちは少なくとも2012年以降、グリーンジャケット受賞者の時計を観察してきたが、彼らはブランドアンバサダーであり、いくつもの素晴らしい時計を見てきた。ここではマスターズで優勝した7人の選手(合計22回のマスターズで優勝した)らが身につけている時計を紹介しよう。

タイガー・ウッズ
タイガー・ウッズ
 もちろん私たちはマスターズで5回の優勝を収めたタイガー・ウッズから始めなければならない。2019年、最新のグリーンジャケットに袖を通したとき、ロレックス ディープシー Dブルーを着用しているのを目撃した。ウッズのキャディを務めるジョー・ラカワ(Joe LaCava)氏によると、2019年の優勝後、ウッズは同氏に派手すぎて箱から出せないほどのロレックスを贈ったという。

 2011年、ロレックスはウッズとテスティモニー(ロレックス独自の用語。アンバサダーという意)を契約している。それ以来、彼がディープシーを身につけている姿は、あちこちで目撃されている。さらに数年前、ウッズは寝ているあいだにもそれを装着していることまで発覚している(そしてキーガン・アレン/Keegan Allen が自身もそうだと言ったことを覚えているだろうか?)。

ロレックス ディープシー Dブルー
 私の好きな時計エンドースメント契約のひとつに、1990年代、若き日のタイガー・ウッズがチューダーのアンバサダーに就任したというのがある。このパートナーシップでもたらしたのが、“タイガー”クロノグラフのラインナップに注目が集まったということだ。当時のチューダーのスタンダードなクロノグラフに似ているが、文字盤に“Tiger”の文字があるほか、(マスターズと同じグリーンを含む)多彩なカラーバリエーションも用意されていた。2000年代の大半をタグ・ホイヤーとともに過ごしたウッズは、2011年からロレックスと契約したのだ。

スコッティ・シェフラー
スコッティ・シェフラー
ロレックス エバーローズ GMTマスターII、“ルートビア”
 昨年のマスターズ優勝者であるスコッティ・シェフラーも、ロレックスのテスティモニーである。勝利のあと、2018年に発売されたGMTマスターIIのツートンカラーバージョンである、ロレックス エバーローズ GMTマスターII、“ルートビア”を腕に巻いている姿を捉えている。

 ウッズとシェフラー合わせると、ロレックスは過去4回行われたマスターズのうち、3回を制覇したことになる。なお松山英樹は2021年、ロレックス サブマリーナー デイト“ブルーサブ”を腕に巻いてグリーンジャケットを羽織っており、ウブロのダスティン・ジョンソン(Dustin Johnson)は2020年に優勝している。

アダム・スコット
アダム・スコット
 またもやグリーンジャケットを羽織る、ロレックスのテスティモニーだ。2013年にアダム・スコットがマスターズを制したとき、彼もまたグリーンジャケットのセレモニーでロレックスのディープシーを着用しているのを確認した。それ以来、彼は完全に時計マニアになったといっていいだろう。彼は2018年のHODINKEE Radioに登場し、時計とゴルフの話について語っている(この日のリストショットは、シェフラーがマスターズ優勝時に着用していた、エバーローズのGMTマスターIIだった)。その頃、彼はヴィンテージロレックスにどっぷりハマっていたという。そしてロレックスの工場も“何度か見学”したことがあるそうだ。かの人はスイスに住んでいるくらいだ!

 今では自身のInstagramにリストショットを投稿している。最近ではミルガウスをつけてポーズまでとっている(よっぽど生産終了になったのが悔しかったようだ)。


バッバ・ワトソン
バッバ・ワトソン
リシャール・ミル RM038
2011年に実際に使用していた、草の汚れがついたバッバ・ワトソンの腕時計の写真。

2013年のマスターズに優勝したアダム・スコットは、バッバ・ワトソンの2度のマスターズ優勝に挟まれたものだった。ワトソンは2011年からリシャール・ミルのアンバサダーに就任している。RMのなかには、RM038とRM038-1トゥールビヨン、RM055など、彼の名を冠したモデルがいくつか登場している。そして2012年と2014年の優勝の際に、ワトソンはRM038を着用していた。しかし、ロレックスのテスティモニーとは異なり、ワトソンはゴルフラウンド中にリシャール・ミルを着用している姿をよく見かける。RM038はトゥールビヨンであること、ケースはオールホワイトでできており、89%がマグネシウム製であるなど、RMに求められているものはだいたい揃っている。また同モデルは50本しか製造されず、2011年のSIHHで発表されたとき、当時は52万5000ドル(当時の相場で約4190万円)で販売された。まさにドレイクがラップするような時計である。

金無垢のロイヤルオーク パーペチュアルカレンダー
今年のマスターズは、2007年以来、ニック・ファルドがアナウンサーブースにいないため少し違った雰囲気になりそうだ。アナウンサーとして活躍する前のサー・ニックは1989年、1990年、1996年の計3回、マスターズで優勝を収めており、現役のキャリア時代に獲得した6大メジャー大会の半分を占めている。

ニック・ファルド
In-Depth: オーデマ ピゲ ロイヤル オーク シングルトーン&バイメタルモデルのストーリー

2018年、カーラはシングルトーン&バイメタルモデルのロイヤル オークを徹底的に深堀りした。すべては、1990年に発売されたニック・ファルドの“チャンピオンシップ”SS&タンタルから始まった。

ファルドは長年、オーデマ ピゲのアンバサダーを務めていた。1990年に全米マスターズ、全英オープンの2冠を達成した際に、APがそれを祝して、ロイヤル オークの“チャンピオンシップエディション”を限定生産したこともある。それはわずか2000本しか生産されなかった33mm径のロイヤル オーク(クォーツ仕様)で、AP社が初めてステンレスとタンタルを使用したことでも当時注目されたモデルだ。さらにキーホルダー、ロイヤル オークのカフリンクスとペンダント、ベルト、ピルケース、ベルト、タンタル×SSブレスレットを含んだ、かなり気合の入ったボックスで販売していた。なおAPは2003年にも、ロイヤル オーク ニック・ファルド リミテッドエディションを発売した。だが、これはファルドのサインが入ったゴルフボール型のローターが特徴的な、チャンピオンシップエディションには到底及ばないものだった。

これらの写真でニック・ファルドは、自身の大勝を記念してつくられた、ロイヤル オーク チャンピオンシップエディションを着用しているように見えないが、実は1枚目の写真の時計のほうがもっとすごい。ゴールドでできたロイヤルオーク パーペチュアルカレンダーを身につけているのだ。2枚目の写真ではグリーンジャケットとクラレットジャグ(全英オープンの優勝トロフィー)を持って、より落ち着いたツートンカラーのロイヤル オークのようなものをつけてポーズをとっているように見える。

ジャック・ニクラス
彼のことはHODINKEEの読者ならよくご存じだろう。メジャーでの優勝を18回(マスターズ優勝6回)果たしたジャック・ニクラウスと我々で、2017年にTalking Watchesを行っている。彼は1967年以来、ずっと同じロレックスのデイデイト Ref.1803 イエローゴールドを所有していた。つまり、18回のメジャー優勝のうち、12回はこの時計とともにしていたことになる。そしてそれを手にしてコースに向かい、小さなバッグに忍ばせたあとゴルフバッグに入れ、18番グリーンを歩きながら手首に装着し直す。その数年後、ニューヨークのフィリップスで122万ドル(当時の相場で約1億3300万円)で落札され、売り上げの100%がニクラス・チルドレン・ヘルスケア財団に寄付された。

このデイデイトを売ったあと、今度はジャックはブラック文字盤のものを購入し、今はそこに落ち着いたようである。

アーノルド・パーマー
最後に、最もスタイリッシュなゴルファーであるアーノルド・パーマーについて紹介しよう。彼は1967年にロレックスと契約し、選手にとって時計のエンドースメント契約を主流にした張本人である(実際、パーマー、ニクラス、ゲーリー・プレーヤーは、多くのアスリートのエンドースメント契約のあり方を変えた、スポーツエージェンシーの先駆者であるIMG/インターナショナル・マネジメント・グループ の最初のクライアントだった)。今でこそ時計の契約を取ることこそ、若いゴルファーの通過儀礼になっているのだが、それはアーニーから始まったことなのである。

アーノルド・パーマー
彼は長年にわたり、いくつかのロレックスの腕時計を身につけていることを確認できる。グリーンベイ・パッカーズのクォーターバックであるバート・スター(Bart Starr)、リチャード・ニクソン(Richard Nixon)大統領、野球選手のアル・ケーライン(Al Kaline)とともに写っている、1969年に撮影されたこちらの写真をご覧いただきたい。彼は手首に、ゴールドのデイデイトをつけている。現代の時計のエンドースメント契約の道を切り開いた人物としては悪くない顔つきだ。

これはロレックス1000万個目のクロノメーターを記念して、

ロレックスはユニークな時計をつくらない。少なくとも、その存在を我々が耳にすることはない。ただし、4月22日にモナコ・レジェンドで開催されるオークションに出品される、このプラチナ製ヨットマスターは、その点において極めて例外的なものだ。これは1992年に、父のアンドレからCEOを引き継いだロレックス前CEOのパトリック・ハイニガー(Patrick Heiniger)氏が依頼した、この世でただひとつのプロトタイプヨットマスターだ。

文字盤に“Dix Millionieme Chronometre”という表記があるように、ロレックススーパーコピー時計代引き1000万個目となるクロノメーター認定ムーブメントの製造を記念して、ハイニガー氏はこの時計をオーダーした。プラチナ製のケースとブレスレット、フリップロック式のクラスプに加え、ユニークなグレーの文字盤にはブルーサファイアとダイヤモンドをセット。全体としてのパッケージが素晴らしく、最高に豪華で華麗なのだ。ロレックスは、1992年にサブマリーナーに代わる高級モデルとしてヨットマスターコレクションを発表。サブは海を潜るダイバー向けのもの、ヨットマスターは海辺のクルージングをする人向けのもので、なかでもこのプロトタイプはヨットマスターのなかで最もヨットマスターらしいといえるだろう。

ロレックスは創業以来、精度とクロノメーターの製造を自社のアイデンティティとマーケティングの核に据えてきた。またチャーチルやアイゼンハワーといった歴史上の人物に記念すべき(例えば5万本目、10万本目のように)クロノメーターロレックスも贈っている。しかし1000万本目には、プラチナのヨットマスターをぶつけたのだ。

つまりロレックスが最もロレックスらしい記念日で祝杯をあげようとしたとき、これに似たような方法をとったのだ。この時計は一般向けではなく、ハイニガー自身に向けてつくられたのである。2010年、それは祝うに値する結果だったと旧友のジョー・トンプソン(Joe Thompson)氏が報告しているように、ロレックスは2000年から2010年にかけて700万本のクロノメーターモデルを製造し、それと同時期に230万本を突破したオメガを圧倒したという。

モナコ・レジェンド・グループのダビデ・パルメジャーニ(Davide Parmegiani)氏によると、ハイニガー氏が1992年にイエローゴールドの新型ヨットマスターを発表したその日、彼の腕にはこのプラチナのプロトタイプが装着されていたそうだ。ハイニガー氏は2008年までCEOを務め、在任中に発表した唯一の新モデルが、このヨットマスターだった。1960年にハンス・ウィルスドルフが亡くなり、南米ロレックスを経営していた父親がCEOの座を引き継いだ(ウィルスドルフの死後、2年間はこの席が空いたままだった)あと、ハイニガー氏はロレックスのトップの座に就いた3人目の人物だった。

 モナコ・レジェンド・グループはこの時計の見積額を100万ユーロから200万ユーロ(日本円で約1億4675万円から、約2億9345万円)とした。ハイニガー家の末裔といわれる委託者に、この低い見積額を保証している。

ヨットマスターは本当に“コレクターズアイテム”なのか?
unique platinum rolex yacht-master
ハイニガー氏が証明するプラチナ製ロレックスが発見されたのは、この数年でこれが初めてではない。そして、それらの過去の時計はすでに記録を更新していて、現代のロレックスがオークションで達成できることの基準となっている。

 90年代後半、ハイニガー氏はプラチナのデイトナコレクションも依頼していて、4本がつくられ、そのうちの1本をハイニガー氏が自分用に保管していたと見られている。過去5年間に残りの3本がオークションで落札されているが、すべてリファレンスナンバーは16516で、それぞれがユニークな文字盤を備えていた。2018年、最初に登場したのは、プラチナ製のデイトナにブラックマザー・オブ・パールの文字盤を組み合わせたモデルだった。それはサザビーズで約87万2000ドル(当時の相場で約9630万円)で落札された。次いで2020年、ラピスラズリ文字盤の16516が、3.27万ドル(当時の相場で約3億4925万円)で落札された。これは自動巻きのデイトナに限ってではなく、現代のロレックスのオークションでの最高記録を樹立したのである。これに続くのが、2021年に314万ドル(当時の相場で約3億4465万円)で落札された3例目のターコイズ“ステラ(Stella)”、16516である。

platinum heiniger rolex daytona unique
ハイニガー氏が依頼したユニークなプラチナ製デイトナ。どちらも過去3年のあいだにサザビーズで300万ドル(約3憶万円)以上の価格で落札されている。

 しかし、このヨットマスターはそれらとは違う、完璧なるユニークピースだ。それにプラチナ製のフルブレスレットも付属している。そして特別なデイトナのうち、少なくとも数本は贈答品だったが、このヨットマスターはハイニガー氏が自身のために依頼したものだった。

「これぞまさにプロトタイプです」と、Loupe ThisとThe Keystoneのジャスティン・グルーエンベルグ(Justin Gruenberg)氏は言う。「あのデイトナとは違い、続けて生産されてきたものではないため、シリアルナンバーもモデルナンバーも記載されていないのです」。パルメジャーニ氏が説明してくれたように、ロレックスがプラチナ製のプロフェッショナルシリーズをつくるのは何年も先のことだ。プラチナのデイトナは、2013年にカタログに掲載されたばかりなのだから。

 デイトナは独自の伝説を築いているが、ヨットマスターは現代の基準において、少なくともまだ“コレクターズアイテム”とはいえない。好きか嫌いか、そのどちらかだろう。しかも特にヴィンテージコレクターのあいだでは、ヨットマスターを愛する人よりも嫌う人のほうが大多数だ。

unique platinum rolex yacht-master
「初代エクスプローラーII の1655やミルガウスなど、比較的人気のないモデルもそうですが、スタイルが進化するに伴い、ある時期から今以上にヨットマスターが評価されるようになるかもしれませんね」とグルーエンベルグ氏。

 一方でこのヨットマスターについて、すでに一部の人がすでに好意的な意見を持っているようだ。

 ディーラーであるゾーイ・アベルソン(Zoe Abelson)氏は、「このモデルは、今日のトレンドである“静かな贅沢 ”を体現しています。フルプラチナケースのクラシックなスポーティデザインと、ダイヤモンドをさりげなく見せるシルバーダイヤルが特徴です」と語る。プラチナのヨットマスターは現代ロレックスの最高峰かもしれないが、ダイヤモンドとサファイアのインデックスを備えているために、そう主張しているわけではない。確かに数は多いが、プラチナのロレックスにサファイアとダイヤモンドをあしらった比較的控えなデザインなのだ。

 その美的感覚が好き嫌いが分かれるところだが(あるいは好きだからこそ)、このヨットマスターはあのラピスラズリのデイトナが打ち立てたモダンロレックスの記録(327万ドル)を超えるはずだというのが、私が話を聞いたほとんどの人の意見だった。1990年代が過ぎ去り、ヴィンテージ、あるいはネオ・ヴィンテージと呼ばれるようになるにつれ、この時代のロレックスに興味を持つコレクターが増え、この時代の最もコレクターの多い時計がわかってきた。希少性という点ではこのモデル自体がまだ少し変わった存在であったとしても、ユニークなヨットマスターに勝るものはない。

unique platinum rolex yacht-master
 いや、ポール・ニューマンのポール・ニューマンでもなく、バオダイでもなく、マーロン・ブランドのGMTマスターでもないため、時計愛好家以外からの入札者を呼び込むこともできないかもしれない。パルメジャーニ氏は、もし大規模なオークションがこのヨットマスターを国際的なロードショーで紹介することができたなら、もっと大きな結果を得ることができたかもしれないと私たちに語っている。しかし彼は賢いコレクターが注目し、1点もののヨットマスターの価値を理解してくれると確信している。

 4桁のヴィンテージロレックスなら、1992年のヨットマスターにはない魅力があるが、このプラチナ製ヨットマスターは、ロレックスにとって歴史的に重要な、唯一無二のロレックスを購入できる初めての機会なのだ。その価値は大きく、オークション開催日には記録的な結果をもたらすかもしれない。

 ロレックスが大きくなり、時計界の注目を集め続けるにつれて、ロレックスにまつわる神話もまた大きくなっていく。それに伴い、このような時計はより興味深いものになる。ロレックスの時計は、たとえ一般に公開されることを意図していなかったとしても、ロレックスが重要な時計として作ったという理由だけで重要な時計なのだ。

HBOのヒットシリーズが今夜で終わる。スクリーンに映し出される時計の舞台裏を紹介しよう。

HBO(ホーム・ボックス・オフィス)の大ヒットシリーズ 、『メディア王 〜華麗なる一族〜(原題:Succession)』のパイロット版で、未来の義理の息子であるトム・ワムスガンズ(Tom Wambsgans)が家長のローガン・ロイ(Logan Roy)にパテック フィリップを贈るエピソードを放映して以来、時計がたびたび登場するようになった(“信じられないほど正確だ。それを見るたびに自分がどれだけお金持ちなのかがわかる”。ロイの作中での冗談)。それ以来、このドラマのファッションはそれ自体がトレンドとなり、“静かなラグジュアリー(quiet luxury)”や“知る人ぞ知る贅沢(stealth wealth)”といった、独特の目を引くフレーズを世間に浸透させた。メディア王 〜華麗なる一族〜の象徴的なルックスやファッションは、たとえ手首につけるものであったとしても、キャラクターが身につけるものひとつひとつに、多大な配慮と努力を注ぎ込むことで実現したのだ。

ダニーは番組のプロップマスターと協力して、各キャラクターの個性に関する数ページの資料を用意。そのうえで彼らの候補となるウォッチリストを提供した。
GQは、なぜ今シーズンでロレックスのモダンな“ペプシ”GMTマスターIIをいとこのグレッグ(Greg)の腕に装着したのか、経緯も含めてその全プロセスをダニーに尋ねた。

 「彼らは彼のためにロレックスを欲しがっていた」と、ミルトンはGQのカム・ウルフ(Cam Wolf)氏に語った。ドラマの視聴者は、グレッグがすでにロレックスのサブマリーナーを所有していて、ケンダル(Kendall)から腕時計をアップグレードするように圧力をかけられたあと、ディーラーに過剰に支払っていたことを知っている。「だから彼の性格が、現代のロレックスにはまっているような気がした」とミルトン。「私の頭のなかですぐにジュビリーブレスレットのペプシGMTが浮かんだだけだ」と続けて話す。またミルトンはセラミック製のデイトナも提案したが、ドラマチームはGMTがいいと即座に判断した。「それが彼の欲しいものだから、できるだけ早く送ってくれと言われたのを覚えている」(ミルトンは“ハリウッドはすべてが非常に流動的で、すべてが土壇場だ。だからそれは消防訓練のようなものなんだ”と付け加えた)。

もちろん、この番組は時計であふれている。広報でありおべっか使いのヒューゴ(Hugo)はパネライをつけているし、ローマン・ロイ(Roman Roy)はロレックスとIWCの時計を切り替えて使っている。またケンダル・ロイはシーズン4の半分以上でリシャール・ミルのRM67を着用し、そしてシヴ・ロイ(Shiv Roy)はカルティエをよくつけていたが、彼女の夫がサントスをオーデマ ピゲ ロイヤル オーク クロノグラフと交換するまでそれは共通の習慣だった。
ダニーはGQ誌の取材に応じ、またメディア王 〜華麗なる一族〜のために選んだほかの時計(広報のヒューゴのパネライや同僚のカロリーナのヴィンテージ ヴァシュロン・コンスタンタンなど)について、“The Hollywood Reporter”で詳しく語っている。また彼は、ここで取り上げた映画『Confess, Fletch』のために、ヴィンテージ ロレックス 1680 サブマリーナーを調達したことがすべての始まりだったことも話している。さらに『セックス・アンド・ザ・シティ』のリブート版である『AND JUST LIKE THAT... / セックス・アンド・ザ・シティ新章』のシーズン2のために、彼が調達に協力した腕時計をこっそり紹介したほか、映画に登場する彼のお気に入りの腕時計や、いくつかの正体不明な有名映画の腕時計についても話していた。
どの時計をキャラクターにつけるかを決めるのに、ダニーがどのようにドラマチームを助けたかについて、その舞台裏の全貌については、GQの“How Succession Sourced the Perfect Watches for Its Absurdly Rich Characters(サクセッションは、とてつもない金持ちの登場人物にぴったりの腕時計をいかにして調達したか)”と、そしてThe Hollywood Reporterの“Why Kendall Is Wearing a Flashy Richard Mille Watch and Cousin Greg Rocks a Rolex “Pepsi” GMT(ケンダルが派手なリシャール・ミルを、いとこのグレッグがロレックス “ペプシ” GMTを身につけている理由)”を見てほしい。

ホイヤー スキッパー Ref.7764の画像と情報をご紹介。

ホイヤーのスキッパーは常に我々の心をとらえて離さないが、先日タグ・ホイヤーが最新作を発表したことでさらに注目度が高まった。限定のカレラスキッパー For HODINKEEと同様、タグ・ホイヤーの最新スキッパーはカレラケースの“スキッパレラ”からヒントを得ている。スキッパーは間違いなくホイヤーの歴史のなかで最も認知度の高いモデルのひとつだが、その特徴はアクアブルーとオレンジのアクセントだけではない。

OnTheDash.comのジェフ・スタイン氏が執筆したRef.7754 スキッパレラの“In-Depth”記事のなかで、知識欲旺盛で親切な彼は初代スキッパーが誕生した時代について詳しく説明している。時は1960 年代。当時はレクリエーションドラッグとロックンロールの時代だった。カレラケースのスキッパーは、ひと目見ただけで明らかにこの時代のフィーリングを反映している。時計のデザイン、特にスイスの時計デザインがこのような文化的な潮流に屈することは非常にまれで、それがスキッパレラのユニークさの一因となっている。

自由な恋愛や鮮やかな色彩とともに、60年代のスイス時計産業にはより深刻な側面もあった。技術革新、生産技術の向上、そしてデザインによって初めてプロフェッショナルやレクリエーション目的の冒険家たちが手に取りやすい価格で耐久性に優れた腕時計を製造し、販売することが可能になったのだ。当時は“スポーツウォッチ”とは呼ばれていなかったが、1960年代にはダイビング用のサブマリーナ、ドライビング用のスピードマスター(当初は)、フライト用のGMTマスターなど、現在では特定の目的のためにデザインされたことがわかっている伝説的なモデルが誕生し、爆発的な人気を博した。1960年代に定着した世代のスポーツウォッチは、今日私たちが“日常的な”時計として考えるものの多くを形作っている。私はビッグブランドの名を挙げたが、アクアスター、ゾディアック、ニバダ・グレンヒェン、そしてもちろんホイヤーといったブランドに至るまで、このトレンドは時計界の隅々にまで浸透していた。
スキッパーの話に戻ると、ホイヤーの最初のふたつのモデルは製作された時代の自由な精神と本格的なスポーツウォッチのデザイントレンドの完璧な縮図となっている。どちらも1年間しか製造されなかったが、1968年のスキッパレラはレクリエーションドラッグの楽しさを、1969年の7764は真面目なスイスの実用性を表現している。ロレックスでいえば、エキゾチックな“ポール・ニューマン”のトリコロールダイヤルや、スキッパーと同じ数年だけ製造されたRef.6239のブラックダイヤルの優れた視認性と似ていなくもない。
ホイヤーが本格的にターゲットとする市場の一角を見つけた証拠として、初代スキッパーから我々の7764へのカラーパレットの変化を見る必要はないだろう。スキッパレラは1967年のアメリカズカップで優勝したチーム・イントレピッドからインスピレーションを得ているが、7764では赤、白、青という、より標準的なヨットクロノグラフの配色に戻されている。この単純化された配色はイエマやギャレットなど、当時のほかのヨットウォッチにも採用されている。スキッパレラはカレラに斬新で派手な文字盤を追加したもので、7764はホイヤーがこの新しい市場で勝負しようとした本格的な試みである。

端的に言うと、ホイヤーはこの時期、世界で最もスポーツに特化したツール志向のクロノグラフメーカーだった。スキッパーはそのヨットクロノグラフのオプションとして機能し、7764はスキッパレラの風変わりなフィーリングを受け継ぎながら、より本格的で堅牢な時計へと進化させた。アウターベゼルを備えた大型の40mmオータヴィアケースに変更したことで操作性が向上し、3時位置の特大レガッタレジスターにより文字盤の面積が広くなっただけでなく、ケース構造もカレラより優れていた。エルヴィン・ピケレス社(EPSA)が供給する7764のコンプレッサーケースは、スクリューバックケースのカレラよりも防水性が高い。コンプレッサーテクノロジーではケース外側の水圧が高まるにつれてガスケットがさらに圧縮される仕組みになっており、ケースは(水深が)深ければ深まるほど防水性が高まる。
スキッパレラも7764も、それぞれ約200の狭いケースシリアル番号の範囲に見られる。この範囲のすべてのケースがスキッパーであったかどうかはわからないが、おおよそホイヤーは最初のふたつのスキッパーを同程度生産していたようだ。しかし市場で知られているスキッパレラが1モデルであるのに対して、7764は2モデル存在する。その上、7764の文字盤コンディションは概してずっとよくなっている。私はこれはEPSAとコンプレッサーケースのおかげであると考えている。スキッパーの購入者が明確な選択をし、しばしばその時計が作られた目的のために使用されたことを考えると、これらの時計は水辺で頻繁に使用されていたはずだ。Ref.7764は船上での(過酷な)使用にも耐えた。この時計の文字盤はその好例で、夜光部分には自然に経年変化したパティーナが見られ、ほぼ完璧だ。

私も同じことをしているのは明らかだが、この最初のふたつのスキッパーを常に比較することは7764の人気とコレクション性を明らかに後退させている。このふたつのモデルは同時期に製造され、文字盤のモデル名も同じだが、1960年代の時計デザインにおけるふたつの異なるトレンドを反映したまったく異なる時計なのだ。つまりセカンドスキッパーは、スキッパレラのような10万ドル近い時計であるべきなのだろうか? いや、しかしもう1度見直して価値はある。

レジェップ・レジェピ、クロノメーター アンチマグネティックを発表。

高い評価を受ける独立時計師が、今年のチャリティオークションに向けて、……そしておそらくその先に向けて、SSケースに鮮烈な新ムーブメントを搭載した。
クロノメーター アンチマグネティックはステンレススティール(SS)製で、アクリヴィア(Akrivia)が開発した手仕上げの新ムーブメントを搭載しており、ファラデーケージ(外部の電界を遮蔽する容器)で保護されている。ミッドセンチュリーに見られた耐磁時計へのオマージュでありながら、独立時計製造、とりわけレジェピの魅力である現代的なタッチをすべて備えている。

レジェピは1950年代に流行したサイエンティフィックな耐磁時計にインスピレーションを得た。例えば、ロレックスのミルガウス、IWCのインヂュニア、ジャガー・ルクルトのジオフィジック、パテック フィリップのRef.3417 アマグネティックなどである。科学者や探検家が新発見をするような場所(地球の極地や原子力発電所など)は磁場が強いことが多く、そのような磁場に影響されずに時を刻み続けるツールウォッチが必要とされたのだ。

ダイヤルは明らかに40年代と50年代にインスパイアされているが、その仕上がりはレジェピらしく現代的だ。
 

現在のほとんどの時計とは異なり、これらのムーブメントの素材は磁気を帯びやすかったため、磁場からムーブメントを保護するためにファラデーケージが使用されることが多かった。アクリヴィアは、ジュネーブの著名なケース職人であるジャン-ピエール・ハグマン(Jean-Pierre Hagmann)氏と再び協力し、本モデルでそれを再現したのだ。彼はパテックからブランパンまでありとあらゆるケースの製造に携わったたのち、2019年に引退を表明し、レジェップ・レジェピ クロノメーター コンテンポラン II(Chronomètre Contemporain II)のケース、そして言うまでもなくOnly Watch 2019版CCI(クロノメーター コンテンポラン I)のケースを製造した人物である。
 ハグマン氏には珍しくケースはSS製で、ムーブメントリング、ケースバック、そしてダイヤルプレートが一体となり、ムーブメントを磁気から守るファラデーケージを形成している。さらにうれしいことに、レジェップ・レジェピの時計がSS製ケースを採用するのは、2019年にかつてバーゼル・ワールドとして知られた展示会(安らかに眠れ)でレジェピ氏自身がCCIのSS製プロトタイプを着用しているのを目撃して以来である。

 外側のねじ込み式ケースバックを(ケースバックに刻印された稲妻がロックする特別なキーで)外すとサファイアケースバックが現れ、ムーブメントの仕上げを見ることができる。ケースには全部で30個のパーツが使用されており、ステップベゼルの採用や、ポリッシュとサテンが混在する仕上げなど、ハグマン氏のケースに期待されるディテールがふんだんに盛り込まれている。ラグのポリッシュ仕上げの面取りを見て、私は初めてエイミー・ワインハウス(Amy Winehouse)の曲を聴いたときのことを思い出した。繊細でオールドスクールなディテールが見事に表現されている。マルチステップベゼルもCCIIのすっきりとした外観と比べると際立って見えるが、写真よりも実物のほうがより繊細に見えるかもしれない。私が気に入っているディテールのひとつ、ラグ裏の“JHP”刻印にも最後に言及しておこう。
 レジェピはもっともエキサイティングな若手独立時計時計師のひとりだ。ゆえに、ムーブメントについても詳しく見てみたい。クロノメーター アンチマグネティックに搭載されたものは、単なるCCIやCCIIの耐磁仕様ではない。そう、アクリヴィアの工房はOnly Watch 2023のために新しいムーブメントを開発し、レジェピ作品の特徴である完璧なシンメトリーと仕上げを完成させたのだ。

外側のねじ込み式ケースバックをはずすと、サファイアケースバックが現れ、ムーブメントの仕上げを見ることができる。
 ムーブメントの中央にテンプがあり、センターセコンドの針を動かす輪列が収められている。また、CCIおよびIIと同じくゼロリセット機能を備えており、リューズを引き抜くと秒針はセンターセコンドを駆動する歯車の真上にあるハート型のカムによって、瞬時に12時位置に戻る(このメカニズムはクロノグラフのリセットとよく似ている)。しかし、クロノメーター アンチマグネティックでは、テンプの停止と秒針のリセットを1度に行う“オール・オア・ナッシング”システムを採用することで、アクリヴィアによるこれまでのリセット機構の改良を図った。リューズを引くとハンマーが作動し、ハート型のカムを押して秒針を12時位置にリセットするのだ。リューズを押し込むとクラッチレバーが戻り、再びテンプが動き始める。アクリヴィアによるとこのシステムによって、リューズを押し戻すと瞬時に秒針が動き出し、正確な時刻合わせと同期が可能になるのだという。
 ムーブメントの素材も注目に値する。レジェピでは初めてのことだが、一般的なムーブメントパーツである高炭素鋼の代わりに、すべての鋼鉄製パーツにSSを使用した。合金であるSSにはクロムが含まれるため、酸化や腐食に強くなっている。こうした特性は仕上げの難易度を高める要因にもなるが、アクリヴィアによれば、クロノメーター アンチマグネティックはほかのレジェップ・レジェピのムーブメントと同レベルに仕上げられているという。まだ実物は見ていないが、センターセコンドホイール用にブラックポリッシュが施されたブリッジはムーブメント全体に伸びており、私の琴線を刺激する。その一方で脱進機にはゴールドのアンクルが採用されている。これは確かに豪奢でもあるが、同時にパテックのようなブランドの初期のアマグネティックが、耐磁性を高めるために脱進機の部品の一部にゴールドを採用していたことを想起させる。
 さらにダイヤルは純銀製で、昔のサイエンティフィックなダイヤルにインスパイアされている。ダイヤルの製造工程でさえヴィンテージウォッチと同様だ。シルバーの下地にエングレービングを施し、ゴールドエナメルを塗ってオーブンで焼成することで色あせしにくいプリントが施されるのだ(これはパテックやほかの高級ブランドがかつて行っていたことであり、多くの硬質エナメルのパテック シグネチャーがダイヤルをクリーニングした後でもシャープに見えるのはこのためである)。最後に、3本の針は金無垢で仕上げられている。

ジュネーブ旧市街にある、レジェップ・レジェピのアトリエにて。Image, Janosch Abel, for Hodinkee Magazine, Vol. 10
ダイヤルのデザインとその完成度はレジェピのすべてを見事に表現しており、同ブランドがおそらくもっとも勢いのあるスイスの新鋭独立時計師であることを物語っている。古いサイエンティフィックな ダイヤルやセクターダイヤルからインスピレーションを得つつも、決してオマージュやコピーには感じられない。極めて現代的なのだ。ダイヤルのエングレービングやエナメル加工など伝統的な時計製造技術を用いながらも、それはすべてコンテンポラリーな感覚を生み出すためのものとなっている。
 仮にパテック フィリップがコレクション性の高いアマグネティック Ref. 3417の現代版を作るとしたら、こんな感じだろう。事実、この相似はかなり根深いものだ。エナメルダイヤルのCCIIはパテック Ref.2526の現代版のようであり、もっとも美しくエレガントな3針時計であることだけを追求したタイムオンリーウォッチだと言える。一方のクロノメーター アンチマグネティックは、より実用的でありながら科学に傾倒した、ちょっと変わった時計だ。昔のサイエンスウォッチのような機能的な役割は果たさないが、クロノメーター アンチマグネティックからはそうした時計が備えていた魅力が今なお感じられる。しかしながら、伝統的な時計作りを現代風にアレンジしたレジェップ・レジェピの時計は独自の価値も有している。

レジェップ・レジェピのCC1とRRCCIIに、スポーティでカジュアルなクロノメーター アンチマグネティックという兄弟機が生まれた。
 多くの小さなウォッチメーカーが、ヴィンテージのパテック フィリップや特に希少なSS製の時計にオマージュを捧げて話題を集めるのは、今やちょっとした成功への近道となっている。レジェピは同じ時代から、しかし決して陳腐には感じさせない方法でインスピレーションを得ることに成功している。
 クロノメーター アンチマグネティックは貴金属製のCCII(納品が始まったばかり)に続くモデルとしてふさわしいものであり、Only Watch 2019のプラチナ製CCIや2021年からのCCIIと同じように、異色かつ格別なものである。これらの時計と並んで、レジェピと成長を続けるアクリヴィア工房の次なる展開を感じさせる。

レジェップ・レジェピのシンプルな3針モデルがSS製ケースになったって? そう、私たちはこの時計に一定の需要があるかもしれないと考えている。
 “マーケット”について簡単に説明しよう。Only Watchはクロノメーター アンチマグネティックに10万~15万スイスフラン(日本円で約1660万~2490万円)の査定額をつけている。2021年、レジェピがOnly Watchのために製作したプラチナ製CCIIは80万スイスフラン(日本円で約1億3255万円)で落札された。今年5月にはフィリップスで初めて一般販売されたCC1に92万4000ドル(日本円で約1億3545万円)という高値がつき、先週はアクリヴィアのAK-06が54万9700ドル(日本円で約8060万円)で落札されたばかりだが、個人間でもっと高額で取引されていただけにこの結果に落胆した人もいたようだ(比較的マイナーなオークションハウスでの落札)。つまりこう言いたいのだ。クロノメーター アンチマグネティックが11月にジュネーブで開催されるオークションに出品された際、どれほどの高値がつくかわからない。また、この時計がいつ量産されるのか、あるいはされる予定なのかについては不明だが、レジェピの過去の実績から考えるに近しいモデルがすぐに製品化され、まあ、いつかは納品されると考えて間違いないだろう。
レジェップ・レジェピ クロノメーター アンチマグネティック for Only Watch。サイズは直径38mmで厚み9.9mm(ラグからラグまでは48mm)、ラグ幅は20mm。SSケースはジャン-ピエール・ハグマン製で、ムーブメントリング、ケースバック、ダイヤルプレートは、ムーブメントを磁気から保護するファラデーケージを形成している。サファイアケースバックとねじ込み式のアウターケースバックがあり、特別にデザインされた鍵を使って取り外すことができる。

手巻きムーブメントはゼロリセットセコンド機能を搭載。ムーブメントにはゴールドのホイールとアンクル、ブレゲヒゲゼンマイ、ジャーマンシルバーのブリッジとプレートを含む239個のパーツが使用されている。シングルバレルで72時間パワーリザーブ。すべての部品は手作業で仕上げられており、アングラージュ(面取り)にブラックポリッシュ、コート・ド・ジュネーブ、手作業による面取りが施された歯車とスポークなど、さまざまな仕上げが施されている。ダイヤルは純銀、針は金無垢。レザーストラップ付き。

150万円の腕時計の魅力。

150万円という予算での腕時計選びは、多くの人にとって人生の節目となる重要な買い物です。一流ブランドの代表的なモデルから選択でき、長年愛用できる高品質な時計が手に入ります。

しかし、選択肢が豊富だからこそ「どのブランドがよいのか」「新品と中古のどちらを選ぶべきか」「本当に満足できる1本はどれか」といった悩みも生まれるでしょう。

この記事では、150万円前後で手に入る厳選されたおすすめモデルから、新品・中古の選び方まで、腕時計選びに必要な情報を詳しく解説します。自分にとって最適な1本を見つけるためのガイドとして、ぜひ参考にしてください。

一般的な腕時計が数万円から数十万円である中、150万円は確実に高級時計の領域に入りながらも、最高級ブランドの数千万円という価格からすると手の届く範囲といえるでしょう。

150万円という価格帯では、ロレックスやウブロ、ブランパンといった世界的に認知された一流ブランドの代表的なモデルが選択肢に入ります。これらのブランドは長い歴史と確かな技術力を持ち、時計好きからの信頼も厚く、社会的なステータスシンボルとしても十分な存在感を発揮します。

また、精密な機械式ムーブメントや耐久性に優れた素材、洗練されたデザインなど、職人技が込められた工芸品としての側面が強く、所有する喜びや満足感は格別です。さらに、人気モデルであれば資産価値としての側面も期待でき、将来的なリセールバリューも考慮できる点は大きな魅力といえます。

この記事では、腕時計のレンタルサービス「カリトケ」で展開されている腕時計の中で、150万円で入手できるモデルを紹介していきます。実際に市場で流通しており、購入可能なモデルばかりなので、より実用的な情報としてお役立ていただけるでしょう。

150万円で買えるおすすめの腕時計
150万円前後の予算で手に入る腕時計は、どれも一流ブランドの技術力と美学が結集された逸品ばかりです。ここでは、信頼性と人気を兼ね備えた代表的なモデルを厳選して紹介します。どのモデルも150万円という投資に見合う価値と満足感を提供してくれるでしょう。

ロレックス GMTマスター(16700)

ロレックスのGMTマスター(16700)は、文字盤をブラックで統一したシックな外観が印象的なモデルです。このカラーリングは、ビジネスシーンからカジュアルな場面まで、あらゆるシチュエーションに自然に溶け込み、着用シーンを選びません。まさに日常使いから特別な場面まで活躍してくれる汎用性の高さが魅力です。

最大の特徴は、3つの異なる時間帯を同時に把握できるGMT機能です。国際的なビジネスに携わる人や海外出張の多い人にとって、実用性の面で大きなメリットとなります。また、耐磁性に優れたゼンマイが使用されており、現代生活で避けて通れない電子機器の影響を受けにくい設計となっています。

GMTマスター(16700)は、ロレックスの中でも特に実用性を重視したモデルとして知られ、堅牢性と精度の高さで多くのユーザーから支持されています。150万円という予算で手に入るロレックスとして、コストパフォーマンスの面でも優秀な選択肢といえるでしょう。

ロレックス GMTマスター(16700)の商品詳細

ロレックス サブマリーナ デイト(16610)

ロレックスのサブマリーナ デイト(16610)は、ダイバーズウォッチの歴史において語り継がれる名作です。ダイバーズウォッチの原点として位置づけられるサブマリーナは、今なお圧倒的な人気を誇っています。防水性能はもちろん、視認性の高い文字盤デザインや確実な操作感のベゼルなど、実用性を追求した設計が随所に見られます。

サブマリーナ デイト(16610)は、伝統を受け継ぎながら現代的な機能性を備えた完成度の高いモデルです。カジュアルなTシャツスタイルから、ビジネススーツまで幅広いコーディネートにマッチし、TPOを問わず着用できます。ロレックスの代表モデルとして、認知度も非常に高く、150万円の投資に見合う満足感を得られるでしょう。

ロレックス サブマリーナ デイト(16610)の商品詳細

ロレックス ミルガウス(116400GV)

ミルガウス(116400GV)は、ロレックスのスポーツウォッチコレクションの中でも特に個性的な存在です。最大の特徴は、ミルガウス専用に開発されたムーブメントを使用することで実現した、極めて高い耐磁性能にあります。現代社会では、スマートフォンやPCなど、磁気を発する機器に囲まれて生活しているため、この耐磁性能は非常に実用的な機能といえます。

デザイン面では、オレンジ色の稲妻をモチーフにした秒針が印象的で、これはミルガウスならではの独特な特徴です。この遊び心のあるデザイン要素が、他のロレックスモデルとは一線を画した個性を演出しています。文字盤のレイアウトも他のスポーツモデルとは異なる独自性があり、人とは違った時計を求める人には特に魅力的でしょう。

ロレックス ミルガウス(116400GV)の商品詳細

ウブロ ビッグバン ウニコ チタニウム(441.NX.1170.RX)

ビッグバン ウニコ チタニウム(441.NX.1170.RX)は、ウブロが4年の歳月をかけて開発した自社製ムーブメント「ウニコ」を搭載した技術的な傑作です。ウブロの時計製造技術の粋を集め、高精度なクロノグラフ機能を提供します。機械式時計の醍醐味ともいえる複雑機構を、現代的なアプローチで実現した注目のモデルです。

最も印象的なのは、スケルトンの文字盤から高級クロノグラフムーブメントの動きを贅沢に眺められることです。歯車やローターの精密な動きを肉眼で確認できる体験は、機械式時計ならではの魅力です。

チタニウム素材を使用したケースは、軽量でありながら高い強度を持ち、日常使いでも疲れにくい装着感を実現しています。ウブロ独特のモダンで力強いデザインは、従来の時計の概念を覆すインパクトがあり、個性的なスタイルを好む人には特に響くでしょう。

ウブロ ビッグバン ウニコ チタニウム(441.NX.1170.RX)の商品詳細

ウブロ ビッグバン メカ10(414.NI.1123.RX)

ウブロのビッグバン メカ10(414.NI.1123.RX)は、約10日間という驚異的なパワーリザーブを誇る手巻きムーブメントを搭載した技術的な挑戦作です。一般的な機械式時計のパワーリザーブが40時間程度であることを考えると、この10日間という持続時間は革新的といえます。

パワーリザーブの残量表示も巧妙に設計されており、通常時は6時位置で確認でき、残り3日になると3時位置に赤く表示される仕組みになっています。これにより、ゼンマイの巻き上げタイミングを適切に把握できます。機能美と実用性を兼ね備えた、ウブロらしい革新的なアプローチが光る設計です。

手巻きムーブメントは、毎日のゼンマイ巻き上げ作業を通じて時計との特別なつながりを感じられるのも魅力の1つです。機械式時計の伝統的な楽しみ方を現代的にアップデートした特別なモデルといえます。

ウブロ ビッグバン メカ10(414.NI.1123.RX)の商品詳細

ジラール・ぺルゴ ロレアート クロノグラフ 42mm(81020)

ジラール・ぺルゴのロレアート クロノグラフ 42mm(81020)は、ラグジュアリースポーツウォッチの美学を体現したモデルです。スポーツウォッチの機能性とエレガントな装いを見事に融合させており、まさにスポーツエレガンスという言葉がぴったりの時計といえます。

最大の魅力は、その汎用性の高さにあります。休日のカジュアルなTシャツスタイルから、平日のビジネススーツまで、どのような装いにも自然にマッチします。42mmのケースサイズも、存在感と着用感のバランスが絶妙です。

ジラール・ぺルゴは1791年創業の老舗ブランドであり、その歴史と伝統に裏打ちされた時計製造技術は高く評価されています。ロレアート クロノグラフ 42mm(81020)は、そうした伝統的な技術を現代的なデザインで表現した傑作といえるでしょう。

ジラール・ぺルゴ ロレアート クロノグラフ 42mm(81020)の商品詳細

ショパール アルパインイーグル ラージ(298600-3002)

ショパールのアルパインイーグル ラージ(298600-3002)は、アルプス地方の豊かな自然とそこに生息するワシ(イーグル)をモチーフにした、自然からインスピレーションを得たユニークなラグジュアリースポーツウォッチです。

文字盤の独特なざらついた質感は、ワシの虹彩を表現したもので、光の当たり方によって異なる表情を見せます。また、針のデザインはワシの羽毛を連想させる繊細で上品な仕上がりとなっており、細部まで徹底されたテーマ性が印象的です。このような自然をモチーフにしたデザインは、他のブランドでは見られない独創性があります。

ベルトとケースには、ショパールが4年の歳月をかけて独自開発した「ルーセントスティール」という革新的な素材が使用されています。この素材は従来のステンレススチールよりも金属アレルギーが出にくい特性を持ち、敏感肌の方でも安心して着用できます。

ショパール アルパインイーグル ラージ(298600-3002)の商品詳細

ブランパン フィフティファゾムス(5015)

ブランパンのフィフティファゾムス(5015)は、ダイバーズウォッチの先駆けとして時計史に名を刻む伝説的なモデルです。1953年に誕生したオリジナルモデルは、現代のダイバーズウォッチの原型となっており、この5015はその高貴な血統を受け継いだ現代版といえます。

設計の核心にあるのは、極限の環境にも対応する高い防水性能と視認性です。深海での使用を想定した堅牢な作りながら、日常生活でも違和感なく着用できるラグジュアリーな仕上がりを実現しています。

文字盤デザインは、視認性を最優先に設計されており、どのような環境下でも時刻を正確に読み取れます。しかし、機能性重視のデザインが逆に洗練された美しさを生み出しており、腕時計の本質的な魅力を感じさせます。

ブランパン フィフティファゾムス(5015)の商品詳細

ハリー・ウィンストン オーシャン トリレトロ ザリウム(400-MCRA44ZK)

ハリー・ウィンストンのオーシャン トリレトロ ザリウム(400-MCRA44ZK)は、3時、6時、9時位置にレトログラード機能を搭載した技術的に非常に珍しいモデルです。

レトログラードとはフランス語で「逆行」を意味し、通常の時計回りの動きとは異なり、反時計回りに動作する複雑機構です。指針が始点から終点に達すると瞬時に始点へ戻り、再び反復運動を行います。

ケース素材には、チタンよりも硬く丈夫なザリウムという特殊合金が使用されています。航空宇宙産業でも使用される高性能金属で、日常の使用における傷つきにくさと軽量性を両立しています。

デザイン面では、ベルトやケースのマットでスポーティーな質感と、文字盤から漂う高級感の絶妙な組み合わせが印象的です。この相反する要素の調和が、ハリー・ウィンストンらしい洗練されたセンスを感じさせます。

ハリー・ウィンストン オーシャン トリレトロ ザリウム(400-MCRA44ZK)の商品詳細

150万円の腕時計は新品と中古だとどちらがお得?

150万円という予算で腕時計を選ぶ際、新品購入か中古購入かという選択は重要な判断ポイントです。それぞれに明確なメリットとデメリットがあり、個人の価値観や購入目的によって最適な選択肢は変わります。両方の特徴を理解して、自分に合った選択をすることが大切です。

新品で買う場合
新品購入の最大のメリットは、メーカー保証による安心感です。正規代理店から購入すれば、通常2年から5年の保証が付帯し、初期不良や製造上の問題があった場合も無償で対応してもらえます。

また、最新モデルを所有できる喜びも新品ならではの特権です。最新の技術革新やデザインアップデートが反映されたモデルを、誰も使用していない状態で手に入れられます。箱や保証書、付属品もすべて揃った状態で購入できるため、将来的な売却時にも有利に働きます。

一方で、新品購入のデメリットは価格の高さです。150万円の予算では、選択できるモデルやブランドが限定される可能性があります。また、人気モデルの場合は入手までに時間がかかることもあり、すぐに欲しい時計が手に入らない場合もあります。さらに、購入直後から中古品としての価値になるため、資産価値の観点では初期の目減りは避けられません。

中古で買う場合
中古購入の大きなメリットは、同じ予算でより上位のモデルや憧れのブランドが手に入る可能性があることです。新品では手が届かない200万円クラスのモデルが、状態のよい中古であれば150万円で購入できる場合もあります。これにより、本来の予算を超えたグレードの時計を所有できる魅力があります。

また、すでに市場価格が安定している中古品は、購入後の価値下落リスクが新品に比べて小さいのも特徴です。人気モデルであれば、購入価格とほぼ同等か、場合によってはそれ以上の価格で売却できる可能性もあり、資産価値の観点では有利な場合があります。

しかし、中古購入には注意すべき点もあります。保証期間の短縮や保証なしの商品も多く、購入後のトラブルリスクは新品より高くなります。また、前の所有者の使用状況によっては、見た目では分からない内部の劣化や調整の必要性がある場合もあります。信頼できる販売店選びと、購入前の入念な状態確認が重要になるでしょう。

時計愛好家やコレクターにとって、書籍は今でもなくてはならない情報源である。

デジタル化が進んだ現在でもコレクターや研究者たちが手間を惜しまずに参照すべきレベルの資料となるような美しい印刷本を出版し、時にはそれ自体がコレクションに値するような本を出していることは、私のささやかなマニア心をほっと温めてくれる。

 ここ数カ月のあいだに、特集を組んでみんなの読書リストに加えたいと思うようなヴィンテージウォッチに焦点を当てた新しい本をいくつか手に入れた。そのうちの2、3冊は必読書ともいえるもので、『Moonwatch Only』や『Patek Philippe Steel Watches』、あるいは私のお気に入りのオークションカタログ(1989年の『The Art of Patek Philippe』や1996年の『The Magical Art of Cartier』)などに並ぶものである。

『The Dial』ヘルムート・クロット博士(Dr. Helmut Crott)著
the dial english helmut crott
 ヴィンテージウォッチコレクターにとって、『The Dial: The Face of The Wristwatch In The 20th Century』は本棚に欠かせない1冊だ。医学博士から時計コレクターに転身し、ついには腕時計専門の最初のオークショナーのひとりにもなったヘルムート・クロット博士が執筆している。彼の数十年にわたる経験は、392ページに及ぶ参考資料と美しい画像で構成された『The Dial』の執筆に結実した。時計の新作に関する発表は一旦置いておいて、2021年にフランス語で発表された『The Dial』の英語版リリースは、私にとって2023年におけるもっともエキサイティングな発表のひとつだった。

the dial helmut crott
『The Dial』は全3章で構成されている。第1章では、おそらく20世紀のほとんどにおいてもっとも重要かつ成功したダイヤルメーカーであり、1932年にスターン一族がパテック・フィリップを買収するほどの功績を挙げたスターン・フレール(Stern Frères)社の物語が語られる。第2章は、ダイヤルを作るために必要なさまざまな工程を包括的に解説。ギヨシェ彫り、ラッカー仕上げ、インデックスの貼り付けなどがどのように行われるのか疑問に思ったことがある人は、この章で学ぶことができる。最後の章では20世紀に作られた特にコレクターの多い時計のダイヤルについて詳しく解説している。例を挙げるなら、ロレックスのデイトナ、パテックのカラトラバ、オーデマ ピゲのカレンダーなど……、すべてがここに載っている。

 この本を手にするのが楽しみで、出費はまったく気にならなかった。HODINKEE Shopに直行し、自腹を切って購入したのだ(従業員割引が役に立ったことは認める)。

『The Dial』全体を通して、技術、工程、ダイヤルの鮮明な画像が600枚以上掲載されている。ハードカバーの本も素敵だが、これはコーヒーテーブルブックよりずっといい。

『The Dial』をHODINKEE Shopで探す(400ドル、日本円で約6万円)。

『パテック フィリップ・ミュージアムの宝物(原題:Treasures From The Patek Philippe Museum)』ピーター・フリース博士(Dr. Peter Friess)著
treasures from the patek philippe museum friess
 パテック フィリップ・ミュージアムに行くことができず、パテック フィリップ・ミュージアムの全カタログに700ドル(日本円で約10万4000円)も払いたくないという人には、この新しい略式版が手堅い選択肢となるだろう。パテック フィリップが所蔵する225点の時計が、それぞれ100ページずつに及ぶ豊富な図版とともにスリップケースに収められている。第1巻ではミュージアムのアンティークコレクションを取り上げ、パテック フィリップ以外の歴史的に重要な時計や腕時計を紹介している。第2巻ではパテック フィリップが所有する現代までのタイムピースについて特集している。

treasures from the patek philippe museum friess book
 ベンが10年前にパテック フィリップ・ミュージアムを訪れた際にも説明したように、このミュージアムは世界でもっとも見応えのある時計コレクションであり、パテックの自社製品だけにとどまらない(たとえば、Collectabilityによるフリース博士へのインタビューを読めば、ミュージアム所蔵のエナメルコレクションの重要性を理解できるだろう)。第1巻ではホイヘンス(Huygens)、ベルトゥー(Berthoud)、ブレゲ(Breguet)をはじめとする数々のタイムピースを取り上げており、年代を超えた計時の旅にあなたを連れ出してくれる。第2巻では、約200年にわたるパテックの歴史のなかでもっとも重要な複雑機構とデザインについて紹介している。たった50スイスフラン(日本円で約8150円)で、この2冊の冊子を超えるものを探すのは難しい。唯一の問題は、本物を見に出かけたくなってしまうことだ。

『パテック フィリップ・ミュージアムの宝物』は、パテック フィリップから直接購入できるほか、一部の小売店でも購入可能(50スイスフラン、日本円で約8150円)。

ジャガー ルクルト『コレクタブルズ(原題:The Collectibles)』
jaeger-lecoultre the collectibles book
 今年、ジャガー ルクルトは同社のもっとも重要なヴィンテージウォッチを発掘、改修、販売するプログラムであるコレクタブルズ(The Collectibles)を開始した。その後、ブランドはヴィンテージウォッチのカプセルコレクションを2度発表した。本件については、こちらとこちらで紹介している。

jaeger-lecoultre geophysic
 これらの時計とともに、JLCは同名の本も出版した。この本は1925年から1974年までのメーカーの黄金期をカバーし、そのなかでも特に重要な17のタイムピースを記録している。この書籍には、製造番号やキャリバー情報など、コレクターが購入する時計を理解するうえで重要な参考資料や、各モデルの歴史的背景が記載されている。それらを追うなかで、レベルソ、ジオフィジック、フューチャーマティックなどについての知識を深めることもできるだろう。また、本書は美しい図版が557ページにわたって掲載されたハードカバーの大作でもある。

『コレクタブルズ』はミスターポーターを通じてオンラインで購入可能(265ドル、日本円で約4万円)。

『Vintage Military Wristwatches』ザフ・バシャ(Zaf Basha)著
vintage military wristwatches zaf basha
 このリストのほかの本とは異なり、『Vintage Military Watches』はコレクターによるコレクターのための参考書である。600ページにわたり、300点近いミリタリーウォッチが、ダイヤル、ケース、ムーブメントの詳細な写真とともに紹介されている。また、製造番号や生産期間、ダイヤルとキャリバーの詳細情報も記載されている。本格的なヴィンテージのミリタリーウォッチのディーラーやコレクターにとって、本著はこれらの時計とそのコレクター性を理解するために必要不可欠な情報であり、資料である。また、『Vintage Military Wristwatches』の後半にはさまざまな国やその支部の軍規格に関する資料が掲載されている。このような一次資料を入手することは、現在では極めて困難である。資料やスキャンの一部には、読者が目にしているものを解説する詳細なキャプションがあればいいのにと思う箇所もところどころあるが、こうした資料はコレクターにとってそれだけでも貴重なものだ。

『Vintage Military Wristwatches』はバシャのサイト、Classic Watchで販売されている(199ドル、日本円で約3万円)。

『The Cartier Tank Watch』フランコ・コローニ(Franco Cologni)著
cartier tank watch franco cologni
『The Cartier Tank Watch』の新著は私が期待していたような参考書レベルの資料にはほど遠いが、それでも豊富な画像とともにタンクの概要を説明している。コローニは1998年に『カルティエ 伝説の時計 タンク(原題:Cartier The Tank Watch)』を出版しており、本書はその最新版になる。同著にはカルティエが所蔵するタイムピースや、歴史的なアーカイブの画像が多数掲載されている。ご期待の通り、イヴ・サンローラン(Yves Saint Laurent)、ダイアナ妃(Princess Diana)、モハメド・アリ(Mohammad Ali)、ゲイリー・クーパー(Gary Cooper)など、多くの著名人がタンクを着用している写真も収められている。それらのなかには見たことのある写真もあれば、見たことのない写真もある。

franco cologni cartier tank watch 2023
 カルティエがこのような形でアーカイブにアクセスできるようにしたことから、ブランド側がこの本の内容に関与していることは明らかだ。時にフランコ・コローニのタンクはカルティエ タンクのマーケティング活動のように感じられることもあるが、広告だとしてもモデルの歴史的背景を紹介するような内容であるため、気にする必要はないだろう。とはいえ新型のタンク フランセーズが裏表紙を飾り、巻末にはそのマーケティングキャンペーンが10ページにわたって取り上げられている。私はタンク フランセーズが嫌いなわけではないし、カルティエにとって非常に重要な商業モデルであることに変わりはない。しかし、この点は特に強引な印象を与える。とはいえ、この本の残りの部分を考えれば小さな対価だ。200ページを超えるページのほとんどは、タンクに関する興味深い歴史や事実で埋め尽くされている。もっと詳しく知りたいと思う部分もあったが、それにもまして勉強になった。

時計の世界における文化的な進化を示すものなのだろうか。それとも一瞬の出来事なのだろうか。

先週の木曜日、時計メディア、インフルエンサー、セレブリティグループが、オーデマ ピゲとトラヴィス・スコット(Travis Scott)とともに1日を過ごした。同僚のプレス関係者と私は、店舗占拠、製品発表会、そしてシークレット・ショーに出席した。しかし、私は個人的な倫理的危機の真っ只中にいることに気づいた。私はこのコラボウォッチレビューを実際の製品で行い、文脈についてのコメントを丁重に断るつもりだったのだろうか? それとも、今回のような立ち上げに際して必ず出てくる難問に、HODINKEEが身を乗り出す必要があるのだろうか? なぜトラヴィス・スコットなのか? なぜヒップホップと手を組んだのか? これを誰が気にするのか?

Travis Scott Cactus Jack Royal Oak LE
 まず私が“アンチ・エスタブリッシュメント”(従来の習慣を支持する人・モノを反対すること)疲れを抱えていることを先に述べなければならない。私はこの限定版ロイヤル オークを、公平性の問題にするのではなく、独自の技術的・美的なメリットに基づいて分析したいと強く願った。しかし時計業界全体、時計メディアの状況、ときには一緒に仕事をしている人たちのあいだにさえ、このような考え方が蔓延している。変化に適応できない、あるいは何か新しいものが現状に対する侮辱ではないと考えることさえできない愛好家や専門家を見つけるのは難しくない。

 その偏見はしばしば覆い隠され、時計の種類から販売方法まで、私たちは何が重要で何が重要でないかについての無意味なレトリック(情報を発信する側が効き手側を説得する手法)に移行することを余儀なくされる。もちろんその言説はブランドの経営幹部の気まぐれである。これでは本物の愛好家は高級品業界の攻撃的なヒエラルキーに翻弄され、その結果コミュニティ間で非常に厳しい意見を生み出すことになるのだ。

AP x Cactus Jack Store takeover
 だから、オーデマ ピゲがヒューストン生まれの32歳のラッパー、トラヴィス・スコットと、彼のレコードレーベルであるカクタスジャックとコラボすると聞いたとき、当然のことながら、私は腰を上げて注目をした。私がトラヴィス・スコットのファンだからというだけでなく、これは紛れもなくひとつの文化的瞬間だったからだ。アメリカ最大の文化輸出品であるヒップホップが、今やスイスの高級時計業界に“公認”、共同署名され、影響を与えていることが目に見えた日である。2005年のジェイ・Z(Jay-Z)とのコラボレーションを考えれば、オーデマ ピゲのラウンド2と呼ぶ人もいるかもしれない。しかし、その考えは短絡的だ。オーデマ ピゲはジェイ・Zのようなアーティストとトラヴィス・スコットのようなアーティストの違いを見分けるのに十分な知識を持ち合わせている。彼らは25歳近く離れ、異なる音楽を作り、異なるオーディエンスの注目を集めている、別のアーティストなのだ。

 歴史的なレンズをとおして見ると、ジェイ・Zのときの限定オフショアは、21世紀の時計デザインのなかで最も重要な時計のひとつであった。確かに、当時ジェイ・Zの10周年を記念したオフショアは、ハリウッドやスポーツと交差する無数のオフショアリミテッドエディションとともに人気のあるリリースだった。ただジェイ・Zの時計は、はるかに重要なものを意味するようになった。それは高級時計製造におけるレガシーブランドと、史上最高のラッパーのひとりとの融合だ。当時、彼自身のキャリアはわずか10年だったがすでにヒップホップ界の重鎮として君臨し、私たちの世代で最も重要な文化的人物のひとりとなる道を歩んでいた。

Jay Z 10th Anniversary LE AP
Image: courtesy of Christie's

 この時計のリリースは、ヒップホップとラグジュアリーの“公式な合併”であり、オーデマ ピゲの現CEOであるフランソワ-アンリ・ベナミアス(François-Henry Bennahmias)氏はこの偉業を誇りに思っている。「ビフォーとアフターがありました」とベナミアス氏は言う。「オーデマ ピゲの世界や時計製造の世界だけでなく、ラグジュアリーの世界にも」。ジェイ・Zとブランドのコラボレーションは、ベナミアス氏によるオーデマ ピゲの全体的な先進的姿勢を象徴するものとなり、ラグジュアリーブランドが最終的にどのような方向に向かうのか、鋭く予言していた。

 ジェイ・Z、ファレル(Pharrell)、タイラー・ザ・クリエイター(Tyler the Creator)ら(彼らは皆、何らかの理由で、ヒップホップを楽しむ大衆に“受け入れられる/よろこばれる”人物とみなされてきた)以外のメインストリームヒップホップアーティストにも、腕時計をコレクションしている人たちがいることを思い出して欲しい。おそらく、これらのラッパーはあなたの琴線に触れないかもしれないが、彼らは時計に興味のある、多くの個人の願望や嗜好を、ときにはライフスタイルやデザインの角度から定義している。ところで、それは機械の理解と歴史への愛着を持ってこの趣味に取り組むことに劣らない美徳である。この層は、時計に興味のある傍観者だけで構成されているわけではない。今日の脆弱な市場で時計のエコシステムを維持するために、完全に必要なものなのだ。彼らは歌詞にイメージを使ったり、ゲッティに届く前に写真を掲載したりすることでこの趣味を売り込んでいるほか、Instagramに投稿される、腕時計を探すための高度なキュレーションされたフィードに投稿をしている。彼らは、多くの人が必死にしがみつき、私的な聖域として存在しようとしているサブカルチャーの歯車を回し続けている。“本物”の愛好家は、このカテゴリーの消費者を見下している。特にウォッチスポッティングのコメントを見ていると、“ひよっ子は下がってろ”的な状況になっていることが多い。

TRAVIS SCOTT Cactus Jack AP LE
 大局的な意味で、つまり私たち全体を見据えた意味だと、オーデマ ピゲがここで何をしているのか、コンセプトカーのなかにあるブラックパンサーやスパイダーマンのミニチュア彫刻と同じように正確に把握している。トラヴィス・スコットはスーパースターだ。彼はこの世代のラッパーであり、ヒップホップ界で最も若いビジネスリーダーのひとりであり、カーダシアン&ジェンナー家のふたりの子どもの父親であり (セレブの大空で彼を不滅にしている) 、グラミー賞に10回ノミネートされたアーティストであり、マルチプラチナレコードを達成したメガスターである。彼は真の実力者だ。

Travis Scott portrait
Image: courtesy of Audemars Piguet

 スコットはポップカルチャーの世界に慣れていないわけではない。彼は2015年に音楽をリリースし始め、カニエ(Kanye)のプロデューサーであるマイク・ディーン(Mike Dean)のような業界トップのおかげで注目されるようになった。ジャンルの好みやラップ音楽への思いに関係なく、作品的にスコットの音楽は文句のつけようがない。ジャーナリストでありニューヨーク・タイムズ紙のポップミュージック評論家、ジョン・カラマニカ(Jon Caramanica)氏は、「(しかし)トラヴィスのセレブリティは音楽的成功を凌駕するかもしれません」と語る。「インターネットが発達したヒップホップ時代には、ストリーミング楽曲で大成功を収めても、自分をフォローしてくれる人たちの輪の外では極端に知られていないことがあります。トラヴィスはある意味、その逆かもしれません」

 スコットはナイキ、マクドナルド、ディオールなどのブランドとコラボレーションしてきた。2020年の米郵政公社危機の際には、トラヴィス・スコットの切手がUSPS(アメリカ合衆国郵便公社)を救うと、ザック・ボーマン(Zach Bowman)の冗談めいたツイートが拡散された。私はくすぐったくなったと同時に、同意したい気持ちもあった。トラヴィス・スコットは企業ブランドの囁き手だ。もし彼がマクドナルドにクォーターパウンダーをもっと売らせ、カクタスジャック×ナイキ・ジョーダンのリセールバリューを元の小売価格の400%アップさせ、オーデマ ピゲのパーペチュアル カレンダーのムーンフェイズ表示に実際のカクタスジャックロゴを入れることができれば...彼の勝利だ。

Travis Scott Performing
Image: Getty Images

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 先週のリリースの際にはふたつの製品が登場した。主力商品は、“チョコレート”ブラウンセラミックでリリースされた限定版ロイヤル オーク パーペチュアル カレンダー オープンワークだ。200本の限定で、価格は20万1000ドル(現在すべて予約・売約済み)。文化的な関連性はさておき、時計自体に興味がなければ、心からそれを認める覚悟はある。しかし、私は本当に気に入っている。スコットがこの色を“カクタスジャック”と名付けたように、チョコレートブラウンは、少なくともファッションにおいては本当に誤解されている色のひとつだ。しかし、イッセイ・ミヤケやグッチ在任中のトム・フォード(Tom Ford)が証明しているように、正しく行われた場合はその勇気に対するバロメーターとなる。ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)は、“醜いもののなかにある美しさ”を信条としており、クールで峻厳なブラックに、豊かで暖かみのあるブラウンをよく組み合わせているが、それはある種素っ気のない“ファッションではない”ものだ。ブラウンは基本的に美的なニュアンスを楽しむ人向けの色だ。プラダ夫人がそうしているのなら、私たちもよろこんで従うべきである。

Travis Scott Cactus Jack Royal Oak LE
 時計自体は明らかに、多くの人が“ラッパーにぴったりのジュエリー”と認識するよう進化したコンセプトだ。このフレーズの順番にはたじろいでしまうが、今日は当たり前のことを叫ぼう。この時計には宝石がひとつもついていない代わりに、私たちが目にするのはオーデマ ピゲとカクタスジャックの真のハイブリッドである。トラヴィス・スコットの手描きスケッチに基づき、特別にデザインされたカレンダーと週表示のタイポグラフィ、曜日のインダイヤルの針がブランドのロゴの形をしているなど、カクタスジャックのグラフィックを参照したデザイン要素が多数盛り込まれている。なかでも最も目につくのは、6時位置にあるムーンフェイズデザインである。通常の地球の衛星表現は、カクタスジャックの象徴である口を縫ったスマイリーフェイスに取って代わられたほか、ブルーとグリーンのコントラストが美しくもかなりイカした夜光を備える。クラブにふさわしい時計だ。

Travis Scott Cactus Jack Royal Oak LE
Travis Scott Cactus Jack Royal Oak LE
 それからストラップがあるが、これは天才的だと思う。この時計をブレスレットにつけていたら、まったく別のものになっていただろうから。ブラックセラミック、フルブレスレットのロイヤル オーク オープンワークも好きだが、このデニムストラップは素朴で意外性があり、セラミックの素材感を引き立てている。ミウッチャ・プラダがブラウンブラウスにブラックショートパンツを合わせたように、意外性があり、脱構築的で洗練されていない感じを与える。そうすることで物事が少しカジュアルになり、ニュアンスが変わるのだ。それはマルタン・マルジェラのデコンストラクションのような、あるいはあえて言えば、カニエの簡素化されたイージー(カニエが手掛けたブランド)の美学をほうふつとさせる。とても現代的だ。チョコレートブラウンのフルセラミックモデルが出てきても、私は決して怒らないだろうし、それは(共同ブランドではなく)今後出てくるかもしれないとも想像している。しかし、ストラップがあることで、従来のオーデマ ピゲ セラミック ロイヤル オークの要素の一部ではなく、カクタスジャックのようになる。

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 この時計はオフショア(回帰)でも、CODE(強引に押し出す)でもない。そう、これは今業界で話題を集める素材、セラミックでできているが、モデル自体は本質的な“トレンディ”ではない。ブレスレット一体型ではなく、ストラップ付きのロイヤル オークなのだ。また高級時計製造において歴史的に権威のあるモデルだ。Cal.5134の進化版であるCal.5135は、オーデマ ピゲのパーペチュアルカレンダーを大幅にオープンワーク化したものである。最初にリリースされたブラックセラミックは、審美的効果を最大限に高めるための近代的な改良として、意図していたものだった。カクタスジャックリミテッドエディションはカッコいいし、オーデマ ピゲが最も得意とする複雑時計製造の証でもある。「パーペチュアルカレンダーは、私たちのDNAの一部です」と、オーデマ ピゲのコンプリケーション部門長であるアンヌ-ガエル・キネ(Anne-Gaëlle Quinet)氏は言う。「私はこれがアンティークコンプリケーションであるという事実が大好きです。パーペチュアルカレンダーは400年前から存在しています。古いものと新しいもの、ふたつの世界が融合した完璧な組み合わせなのです」。伝統的なコンセプトを正しくリミックスしている。

Travis Scott Cactus Jack Royal Oak LE
Travis Scott Cactus Jack Royal Oak LE
Travis Scott Cactus Jack Royal Oak LE
 そしてもちろん付属品もある。“トラヴィス・スコットのウェブサイトのみで販売される服やアクセサリーの限定コレクションの一部収益はスコットが選んだチャリティ・プロジェクトや大義に寄付される”。このチャリティが何なのかが分かれば素晴らしいが、ここでの取り組みをいったん理解しよう。

 この商品は新しいオーディエンスを開拓し、すでに歌詞からオーデマ ピゲのことを知っているが、どうやって参加すればいいのかわからないという普段と異なる消費者にもアプローチしようとしている。この時計は明らかに手軽なものではないし、金銭的にも到達は困難だろう。それは言うまでもない。この時点で、私たちはウェイティングリスト/アウトプライスゲームに慣れている。

「そこに“お金がある”かどうかはわかりません。ただ、トラヴィス・スコット、カクタスジャック、オーデマ ピゲと書かれたシャツを着て歩くなんて、10年、20年前に横行していた非公式のような夢物語です」と説明するカラマニカ氏。「どのような種類のコラボレーションであれ、そこには“潜在的消費者”の層が存在します。時計を買って、シャツを買って、コアなものを買う。そうすれば参加したことはないけれど、仲間にこのことを知らせたいという人が出てくるでしょう。小さな独占権を手に入れ、それを身につけ、周囲に自慢する方法として製品を利用するのです」。商品は補助的なものだ。時計を買う余裕がないので、次善の策としてこれを買う。カクタスジャックのブランディングはさておき、これはeBayでロレックスのベースボールキャップやポロシャツを買う人たちと変わりはない。ブランドと文化の一致なのだ。


 なぜ時計業界はポップカルチャーと足並みをそろえる必要があるのか? なぜブランドは時流に身を置かなければならない立場にあるのか? 2020年、雑誌フォーブスは、スコットが「大手企業のブランド再考を支援し、セレブと企業の付き合い方を変えている」と報じた。このコラボレーションから明らかなように、スコットは企業に何をすべきかを指示しているのであって、その逆ではない。オーデマ ピゲが文字盤に外部ロゴを入れたのは、2000年代初頭のオフショア・アリンギ以来となる。それ以前に外部ブランドのロゴが使用されたのは、オフショアボートのチーム(伝統的な腕時計を身につけている人たち)だけだったという事実は、この業界がいかに二極化しており、社会的な溝がどれだけ広いかを物語っている。

 今の状況は、2005年のときと計り知れないほど異なる。これはファンだけでなくアーティストにも言えることだ。「ヒップホップはクワイエット・ラグジュアリーの時代を迎えています」と、『Ice Cold: A Hip-Hop Jewelry History』の著者、ヴィッキー・トバック(Vikki Tobak)氏は説明する。「時計は、より成長した美学を体現しています。ヒップホップの世界ではもう少し上級者向けのものなのです。彼らはダイヤモンドのネームプレートチェーンを依頼するつもりはないと思いますが、時計は買うでしょう」。それはもはや“成功”の物語ではなく、むしろ“私はここに留まり、さらなる成功をキャッチし、役員室での会話をリードするためにここにいる”という物語なのだ。

Travis Scott Cactus Jack Royal Oak LE
 今回のようなコラボレーションには、潜在的な落とし穴がある。私が最初に感じたのは、このリリースがブランドの不安を引き起こしたというものだった。パニックに陥ったような状況だ。カラマニカ氏もこれに同意している。「これは歴史的に、常に自社製品について話しているわけではないオーディエンスに対して、自社製品の認知度が高まっていることを理解することへの不安を反映しています。これは“コラボこそ正しいブランディングアプローチだと誰かが教えてくれた”という物の見方にあります」

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 これは何の根拠もなく関連性を維持するための試みだったのだろうか? ベナミアス氏は、トラヴィスは確かにコレクターの世界の一部だと主張している。「トラヴィスに初めて会ったとき、彼はすでに私たちの時計を8~10本所有しており、私たちから直接購入していました。なので彼が誰であるかを知っていました。外から見つけてきたジェイ・Zと比べて。これは大きな違いです」。彼はこう続ける。「10回中9.9回は、すでに顧客だった人たちと提携してきました。なぜなら、彼らがすでにクライアントであれば、ああ、私はあなたにXX円払うから、これが最も美しいと言ってくれと伝える必要がないからです。まさにオーガニックな循環なのです」

FHB and TRAVIS SCOTT
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 スコットの音楽ファンや消費者は、彼のブランドが美的に何を表しているのか、必ずしも完全には理解していないかもしれないが(それはサウンド的にもビジュアル的にも変化しやすいのだ)、スコットのブランドは間違いなく、彼の遍在性と懐に入りこむ能力にある。この種の成功は、真にクリエイティブな才能を持つ人たちへの非難と読むこともできるし(私はよくそうする)、政治的な現状の変化をポジティブに反映していると読むこともできる。その両方だと考えるのが最も賢明なアプローチだ。ラッパーがこれらのカテゴリーに進出し、彼らの背後にいるファンがこれらのカテゴリーに触れ、興奮するにつれて、ラグジュアリーブランドは岐路に立たされている。それは彼らに「私たちは今までと同じように毅然とした態度で臨み、彼らが私たちのところに来てくれることを願うのでしょうか? それとも意地を見せるのでしょうか?」と尋ねることになる。

 この時計は誰のためのものなのか? ファン? コレクター? ふたつの中間にいる人? 「ヒップホップは依然としてラグジュアリークラスの音楽であることを忘れてはならない」とカラマニカ氏は指摘する。リッチな場所で夏を過ごし、プライベートジェットで頻繁に旅行をして、絵に描いたような自分の完璧な写真(バーキンをしっかりと手に持ち、足元にはゴヤールのキャリーバッグを計画的に積み上げている)を自分のソーシャルメディアにアップロードする、新しくモダンなラグジュアリー層だ。おそらく豪華なライフスタイルを送り、トラヴィス・スコットの音楽と理論的で美的な立場に非常に精通している若い人だろう。「もしそれが従来の時計購入層と重ならないのであれば、それはオーデマ ピゲのような企業にとって最善の利益になるでしょう。というのも次世代のコレクターを育成するには、それ以外に方法があるでしょうか?」

ポロは、ピアジェ初となる特定のモデル名を冠した時計であり、

この事実がポロについて知っておくべきことのほとんどすべてを説明してくれている。

「ピアジェは当時、モデル名に強く反対していました」と、ピアジェのパトリモニー(遺産)・オフィサーであるアラン・ボルジョー(Alain Borgeaud)氏は説明した。「彼らは常に、ブランドを第一に考えていたのです」。しかし、このデザインはピアジェの大胆かつ新しいスポーツシックな方向性を示すものであり、またブランド初のスポーツウォッチには名前が必要だった。少なくとも、米国代理人はそう主張した。当時、ピアジェはパームビーチで開催されたポロ・ワールドカップのスポンサーだったため、“ポロ”という名前は理にかなっていた。

そして1979年、ピアジェ ポロが誕生した。

ここ数年コレクターのあいだでヴィンテージピアジェへの関心が高まっている中、今年はピアジェの150周年となり、今はこれ以上ないタイミングである。ストーンダイヤルから極薄時計の製造まで、ピアジェは20世紀半ばのパイオニアだ。しかし、ほかの時計とは一線を画すものがある。それがポロだ。

 このコレクターズガイドでは、1979年に発表され、90年代初頭まで生産された初代ピアジェ ポロを詳しく紹介する。それは『カジノ(原題:Casino)』に出演したロバート・デニーロ(Robert DeNiro)氏の手首や、またアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)、ブルック・シールズ(Brooke Shields)氏、ビョルン・ボルグ(Björn Borg)氏、その他多くの実在する人物の手首を完璧に飾り、瞬く間に時代のアイコンとなった。

 近年、ポロの人気が再燃している。これまでと同様、シルヴェスター・スタローン(Sylvester Stallone)氏が『タルサ・キング(原題:Tulsa King)』でポロをつけ、またコートサイドに座ったマイケル・B・ジョーダン(Michael B. Jordan)氏も着用しているなど、文化的な影響もある。しかし、その関心は主に愛好家やコレクターによって動かされてきた。それはノスタルジーであり、ピアジェが文化や時計製造に与えた影響への感謝であり、より小型でドレッシーな時計への転換でもある。これらが混ざり合って、私たちが“トレンド”と呼ぶ混乱を招く大釜になった。

piaget polo 7661 and 7131
初代ピアジェ ポロ 7661 C701(ラウンド)と、7131 C701(スクエア)。

 私は以前、ポロが発売された歴史的背景について記事にしたことがあり、マライカ(・クロフォード)はWatches in the Wild: パリ編で、ピアジェのボルジョー氏とともにその魅力を探求している。

 この記事ではピアジェのアイコンであるポロに焦点を当てる。同モデルへの関心は高まっているが、テキスト化した情報はまだあまりない。売りに出されているポロを見ると、値段はピンキリだ。大ぶりなポロよりも小ぶりなポロのほうが、高い値段が付いていることが多く、コンディションはあまり考慮されていないようだ。

 この記事がそれを変え、潜在的なコレクターがより多くの情報に基づいて購入を決定するのに役立つことを願っている。

ポロの幕開け
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ラピスダイヤルを持つヴィンテージのピアジェ ベータ21。Image: courtesy of The Keystone

ポロの前に登場したベータ21は、ピアジェを含む21のスイスメーカーがコンソーシアムを組んで開発したクォーツムーブメントである。ベータ21自体は上出来だったが、エレガントでシックな超薄型のピアジェには合わなかった。その分厚いムーブメントは、ロレックスの5100やピアジェ、パテックのベータ21のような、さらに分厚いケースに収められた。ピアジェは分厚い外観を好まず、超薄型の筆頭格としての評判にも見合わなかったため、ベータ21では、より薄い時計であるかのように錯覚を起こさせるステップケースを採用した。しかし、それだけでは十分でなかった。

「ピアジェは、私たちが最初から最後までコントロールできるものを望んでいました」とボルジョー氏。そこでピアジェは、独自のクォーツキャリバーの開発を開始し、最終的に1976年に、自社製Cal.7Pを発売した。それは発売と同時に、厚さわずか3.1mmという世界最薄のクォーツ時計となった。その後すぐに、女性用に設計されたさらに小さなムーブメントである8Pが登場した。

 新しい極薄ムーブメントを準備したピアジェは、同じようにシックな時計を必要とした。

 ボルジョー氏は、「米国代理人は特に、ピアジェには日常使いしやすく、若い新規顧客を引きつけることもできる“スポーツシック”な時計が必要だと考えていました」と話す。デイトナ(旧ル・マン)の初期の広告のように、ポロには触れず、ただ“新しくて輝かしい”とだけ紹介したピアジェウォッチの初期の広告を見つけることができる。

piaget polo 7661 and 761
ラウンド型のピアジェ ポロは、34mm(Ref.7661)と27mm(Ref.761)の2つのサイズで発表された。どちらも、ピアジェの新しい極薄クォーツCal.7Pを搭載している。Image: Courtesy of Bonham's.

 1979年、ピアジェは132~136gのゴールドを使用した金無垢時計、“ポロ”を発表。男性と女性をターゲットにした小さいサイズと大きいサイズの両方で展開し、またラウンドとスクエアのオプションもあった。ゴールドはサテン仕上げで、あいだにポリッシュ仕上げのゴドロン装飾を採用し、ポロの特徴的な外観を与えていた。ピアジェの新しいクォーツCal.7Pは、ポロに搭載された。今では愛好家がクォーツを見下すこともあるが、当時はこの新しい技術は違った見方をされていたのである。

piaget polo 8131 square
アートキュリアルオークションに出品された、ピアジェ ポロ。

「当時のクォーツは非常にシックで、7Pは最もシックなもののひとつになりました」とボルジョー氏。超薄型で、裏蓋に隠されたリューズを介して針をセットするため、ケースサイドからリューズの突出がない。つまり、リューズがピアジェの新しいブレスレットウォッチのエレガンスさを損なうことがないのだ。これにより、ポロは時刻を知るための2本の針を備えた、完全に左右対称のブレスレットウォッチとなった。

 標準的な金無垢ポロは、1980年代には約2万ドル(インフレ調整後で現在7万ドル、日本円で約1037万3000円に相当する)で販売されていた。さらにダイヤモンドセッティング、ストーンダイヤル、そのほかあらゆるカスタマイズオプションが、別料金で用意されてもいた。

 この頃、4代目のイヴ・ピアジェがブランドの指揮を執り、エレガントさと華やかさのバランスのとれたブランドとして、さらなる定義づけに取り組んでいた。“ポロはブレスレットウォッチだが、まず前提としてブレスレットである”と、イヴのこのセリフは有名である(フランス語ではもっと上品に聞こえるらしい)。

型にはまったピアジェ ポロ
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ラウンドポロのほうが認知度が高くなったが、一方でスクエアポロのほうが商業的には成功したとボルジョー氏は話す。

「(スクエアモデルの)ブレスレットはケースの形状と完全に一体化しており、ポロの重要な特徴であるブレスレットと時計が完全に調和化した完璧な例となっています」と同氏。この点については、私が話をしたすべてのディーラーやコレクターが同意していた。ラウンドポロが注目される一方で、スクエアポロはピアジェのブレスレットウォッチを最もよく表現している。

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スクエアポロ 7131を着用するマイケル・B・ジョーダン。Image: Getty Images

 ピアジェは1979年から1990年までポロを生産していた。1988年、ヴァンドーム・グループ(現リシュモン)はピアジェを買収した。ポロの生産は1990年に終了したが、ピアジェは買収後も数年間ポロを販売していたようである。

 ボルジョー氏の推定だと、ピアジェはスクエアとラウンドのポロを2000から3000本(合計4000から6000本)生産したという。製造数は驚くほど少ないが、メーカー希望小売価格や金無垢ロレックス デイデイトがその約半額で手に入ったことを考えると、それほどでもないかもしれない。

 ポロに含まれていた膨大な量の金と、歴史の大半においてポロの価値がスクラップの価値よりも低かったという事実を考えると(現在でもそれほどの価値はない)、長い年月のあいだにどれだけの数が溶かされたのかはわからない。

piaget polo reference 7661 in yellow and white gold
イエローゴールドにホワイトゴールドのゴドロン装飾を施した7661 C701。ほとんどのポロはYG製であるが、約30%はWGとYGのツートンカラーである。Image: Courtesy of Wind Vintage.

 ポロの約95~98%はクォーツであった。ピアジェのコレクターにはたまらない、珍しい自動巻きポロについてはのちほど紹介しよう。YGのポロが圧倒的に多く、全体の約70%を占めている。残りの約20%がバイメタル(WGとYG)と、10%がWGだ。

vintage piaget polo 7661 and 7131 white gold
ポロのうち、WGで製造された個体はわずか10%に過ぎない。WG製の7661と7131。Images: Courtesy of Rarebirds and Sotheby's, respectively.

 ピアジェは数十種類のサイズ、スタイル、バリエーションでポロを生産した。リファレンスナンバーからは以下のことがわかる。最初の桁はキャリバーを表し、Cal.7Pの場合は7、Cal.8Pの場合は8が多い。次の数桁はケース素材を表す。そして末尾の桁はブレスレットの種類を表す。たとえば、ダイヤモンドのないプレーンな金無垢ブレスレットの場合は“C701”となる。

ピアジェ ポロの知っておくべきリファレンス
最も知名度が高くて重要なリファレンスは、初代の大ぶりなラウンドポロ、Ref.7661 C701(34mm径)およびその兄弟機であるスクエアのRef.7131 C701(25mm径)である。これらと並行して、ピアジェは小型のRef.761(27mm径、ラウンド)とRef.8131(20mm径、スクエア)も発表している。80年代を通じて、ピアジェはほかのサイズやデイト、デイデイトモデルを投入した。ピアジェはまたあらゆる種類のレザーストラップ付きポロも発表しているが、今回はフルゴールドブレスレットのものだけに焦点を当てる。なお2016年にポロ Sが発売されるまで、ピアジェはスティール製ポロを製造したことはなかった。

ベルネロンやダニエル・ロート、レジェピといった小規模ブランドからの新作が、

この若い時計師たちはSJX Watchesを運営するスー・ジャーシャン(JX Su)氏と同席し、彼らが初めて手がけたインディペンデントウォッチ、アインザー(Einser)を見せるために私を呼んだのだ。彼らはA.ランゲ&ゾーネでキャリアをスタートさせその後独立したが、その背景の一部にはグラスヒュッテが独立系ウォッチメイキングの拠点となりうることを証明したいためでもある。
 アインザーを発表したあと、カリニッヒ・クレエは瞬く間に30本すべてを売り切った。まだあまり知られていない時計師としては見事な成果である。Geneva Watch Daysでは新作の発表はそれほど多くはなかったが、カリニッヒ・クレエはダニエル・ロートやベルネロンなどEditors' Picksで取り上げたブランドと並んで、私が印象に残った存在のひとつだった。今後数週間でさらに多くの記事を掲載する予定だ。

若き時計師カリニッヒ氏とクレエ氏による見事な仕事ぶりは目を見張るものがある。彼らはほぼすべての部品を自分たちで製造しており、とりわけムーブメントの設計が印象的だ。伝統的な4分の3プレートを採用しているが、ムーブメントの最も興味深い特徴が見えるように露出している。たとえばテンプ受けには、ランゲの元マスターエングレーバーによってエラのような模様が刻まれており、さらにヒゲゼンマイと連動するレギュレーターがテンプ受けのシェイプに沿って配置され、スワンネックに似た機能を果たしている(下図参照)。

 その一方で、スイスの時計業界は多くの報道によると苦境に立たされている。Geneva Watch Daysのあと、ブルームバーグのアンディ・ホフマン(Andy Hoffman)氏は、“スイスの高級時計メーカーは、需要減退に対応するため政府に財政支援を求めている”と書いている。ブルームバーグによると、ジラール・ペルゴとユリス・ナルダンを所有するソーウィンドグループは、従業員の約15%を短時間労働や一時帰休にするため、この国のプログラムを利用していることを初めて明らかにしたブランドである。このプログラムでは企業が一時的にシフトを削減するあいだ、政府が一時帰休中の労働者の給与の一部を負担する。最近の報道によれば、時計部品サプライヤーが多く集まるジュラ地方では、この夏に約40社がこのプログラムに申請しているという。
 カルティエ、IWC、ヴァシュロン・コンスタンタンなどのブランドを傘下に持つリシュモンのトップでさえ、自社ブランドが生産を抑制し、“ただ単に量を追求するのではなく、慎重になるべきだ”と述べている。 
 これらふたつの対照的な話を、ひとつのすっきりした物語にまとめるのは難しいかもしれない。一方でまだあまり知られていないドイツの時計師ふたりでは処理しきれないほどの需要があり、また彼らのような状況にあるブランドはほかにも存在する。他方では、何世紀もの歴史を持つGPやUNといったブランドが、工場をフル稼働させるほどの需要を確保できていない。この“対照的な話”の一部こそが、どんな業界でも健全さを保つ要因である。好みは変化し、古いブランドは遅れをとったり適応できなかったりする一方で、新しいブランドがその穴を埋めるのだ。結局のところ、先に挙げた小規模なブランドの新作に熱狂し、ジラール・ペルゴのラ・エスメラルダ トゥールビヨン “シークレット” エタニティ エディション(税込6295万3000円、世界限定18本)についてはほとんど触れないのには理由があるのだ(私たちはこのモデルのターゲット層ではない)。
 中国経済の減速がこの停滞の主要な原因として挙げられている。確かに、時計業界は経済的不確実性の犠牲となっているが、Geneva Watch Daysのような時計展示会は、政治集会や高校の壮行会のようなものであり、意図的に興奮を煽り、実際の時計に焦点を当てるために設計されている。
 新作の発表はそれほど多くはなかったものの、それぞれ秋の新作発表やオークションなどに向けて準備を進めるなか、業界を盛り上げるには十分な内容だった。ここでは私がジュネーブで目にしたハイライトをいくつか紹介する。これらについては、今後数週間でさらに詳しく取り上げる予定だ。
全体のムード

新設されたオルタナティブ・オロロジカル・アライアンス(Alternative Horological Alliance)のタンタル製ブレスレット。
 ほかの展示イベントに比べて、Geneva Watch Daysは緩やかで分散型の雰囲気を持っており、とくに小規模のインディペンデントブランドに焦点が当てられている(パテック、ロレックス、リシュモンなどは不参加)。実際、この独立系の精神こそが、業界全体に最も大きな活気をもたらしているのだ。
 それを最も象徴していたのは、新作発表ではなく、私が週の始めに参加したオルタナティブ・オロロジカル・アライアンスの発表だったかもしれない。これは、ミン、フレミング、J.N.シャピロが共同で立ち上げた取り組みであり、インディペンデントウォッチメイキングを“既存の枠を超えた新しい基準”に向けて推進することを目的としている。マークの説明によれば、この取り組みでは資源を共有し、伝統的な時計製造のサプライチェーンの一部を再考することも含まれている。このアライアンスの発表とともに、ミンがデザインし、シャピロが製造した印象的な新作のタンタル製ブレスレットも披露された。
 彼らの製品は常に独立性の価値を示しているが、長期的に持続可能な独立系ブランドを築くことは難しい。AHAのような取り組みが、その助けとなることを願っている。
オークション

11月に開催されるサザビーズの“トレジャー・オブ・タイム”オークションの注目ハイライト。ブレゲ数字を採用したRef.1563が目玉となっている。
 現行品の市場と同様に、オークションやセカンダリーマーケットも減速している。これは時計に限った話ではなく、サザビーズは最近、上半期の収益が大幅に減少したと報告した。大手オークションハウスは秋のシーズンが好調になることを期待しており、すでに11月のセールプレビューを行っている。
 まず最初にプレビューしたのは、サザビーズのシングルオーナーによる“トレジャー・オブ・タイム”オークションだ。11月に行われる同オークションは、パテック フィリップを中心に30本の時計が出品される。目玉はRef.1563のスプリットセコンドクロノグラフだ。現存するものはわずか3本しか確認されておらず、そのうちの1本は有名なジャズミュージシャン、デューク・エリントン(Duke Ellington)が所有していたもので、現在はパテック フィリップ ミュージアムに収蔵されている。1563はイエローゴールドケースと“タスティ・トンディ”と呼ばれるRef.1463と同じプッシャーが特徴だが、このモデルを際立たせているのはブレゲ数字である(ちなみにエリントンのモデルにはこのブレゲ数字はなかった)。このコレクターはブレゲ数字に強いこだわりを持っていたようで、Ref.130 クロノグラフや、ブラックダイヤルの2499、さらにはRef.1436のスプリットセコンドクロノグラフにもそれが見られる(しかもハードエナメルで!)。Ref.1563のスプリットセコンドクロノグラフは、推定落札価格が100万スイスフラン〜300万スイスフラン(日本円で約1億6640万~4憶9900万円)とされており、2013年に記録した150万スイスフラン(当時の相場で約1億5800万円)を超えるかどうかが注目される。近日中に詳しいプレビューをお届けする予定だ。なおサザビーズ“トレジャー・オブ・タイム”の全カタログはこちら。

ジュルヌが製作した2本目の腕時計であり、初めて販売されたトゥールビヨン・スヴラン。11月に開催されるフィリップスのリローデッド(Reloaded)オークションに出品予定だ。
 一方、フィリップスはリローデッドオークションのプレビューを行った。同オークションは1980年から1999年の時計を中心に取り扱っており、フィリップスはこの時代を“機械式時計製造の再興”と呼んでいる。ブレゲ、ブランパン、ダニエル・ロート、デレク・プラットなど、この時代を象徴する時計師たちの幅広いコレクションが揃っているが、特に注目すべきは初代ロレックス レインボー デイトナと、ジュルヌが製作した2本目の腕時計であるトゥールビヨン・スヴランだ。今年1月のマイアミアンティークショーの特集を振り返れば、リローデッドに出品されているほかの時計を思い出すかもしれない。
 私はジュルヌファンではないが、トゥールビヨン・スヴランはまさに見事な職人技の結晶だ。“クラフトマンシップ”という言葉は今ではすっかり使い古されているが、この時計にはその真の意味が込められている。素朴なダイヤルかつ手彫りで、インクが湿ったノートのように滲んでいる。レインボー デイトナは“300万スイスフラン(日本円で約4憶9900万円))を超える見積もり”だが、ジュルヌは“200万スイスフラン(日本円で約3億3260万円)を超える”見積もりとなっている。個人的には、ジュルヌのほうが響くものがある。繰り返すが、私はジュルヌファンではない! フィリップスオークションについては、今後さらに詳しく取り上げる予定だ。ちなみに、プラチナ製のデュフォー デュアリティにはまだ触れていないが、オークションのレベルが高いことはこれでお分かりいただけるだろう。オンラインカタログはこちら。
 それでは、新作時計の紹介に移ろう。
新作発表: A(アルビスホルン)からX(ジェブデ)まで

アルビスホルンのマキシグラフは、存在していたかもしれないヴィンテージレガッタウォッチを、遊び心たっぷりに再解釈したモデルだ。
 アルビスホルン(Albishorn)は、セリタ社のイノベーションおよびマーケティング責任者であるセバスチャン・ショルモンテ(Sébastien Chaulmontet)氏によって立ち上げられた新ブランドだ。ショルモンテ氏は筋金入りのヴィンテージクロノグラフ愛好家であり、彼のコレクションの一部を紹介する素晴らしい動画も公開されている。長年彼の存在を知っていただけに、ついに本人と直接会えたことがとてもうれしかった。
 アルビスホルンのマキシグラフはマッセナLABとのコラボレーションによって誕生し、1930年代に作られていたとしたらどのようなモダンなレガッタクロノグラフになっていたかを想像してデザインされた時計だ。デザインは見事に仕上げられており、典型的なレガッタタイマーとは一線を画す、いくつかの巧妙な技術的イノベーションが盛り込まれている。同僚のジョナサンはEditors' Picksで、この時計をGeneva Watch Daysで最も気に入ったリリースとして挙げている。アルビスホルンからは今後も“ヴィンテージウォッチの再解釈”をテーマにしたモデルが登場する予定で、すべてがヘリテージのアイデアを遊び心いっぱいに表現している。またヴィンテージにインスパイアされたデザインが、必ずしも堅苦しいものである必要がないことも証明した。

スリム化されたM.A.D.1 S。マークのHands-Onレビューでも紹介されたモデルだ。
 1年以上ぶりにMB&Fの時計とじっくり向き合う機会を得たが、まるで動くアートのワンダーランドのようだった。レペとMB&Fのコラボ作“アルバトロス”、いわばチャイムを鳴らす飛行船型の置時計から、実際に装着可能となったM.A.D.1 Sまで、マックス・ブッサー(Max Büsser)氏の世界に足を踏み入れた瞬間から、その感覚に圧倒される。過去数十年間、彼ほど時計や置時計の目的そのものを根本から再考した人物はいないだろう。彼の作品を実際に手に取ることで、その独自性を改めて実感させられる。
 ジュネーブ中心部にあるジェブデ・レジェピ(Xhevdet Rexhepi)氏の工房は活気に満ちており、6人ほどの従業員が組み立てや仕上げのさまざまな工程に取り組んでいる。彼のアトリエの様子は、この動画で手軽に見ることができる。彼の手がけたミニット・イネルテは、インディペンデントウォッチメイキングの革新的な作品だ。秒針が毎分2秒間停止し、そのあと分針が一気に進むという仕組みで、これはスイスの鉄道時計を参考にしたものだ(実際の動作はここで確認できる)。この複雑機構を完成させるのには相当な苦労があったようだが、彼の工房ではグリーンとブルーのダイヤルを備えた実働モデルを見ることができた。

オクト フィニッシモ ウルトラは、驚くほど薄いにもかかわらず、依然として“時計”としての感覚を保っている。

...しかし、底知れぬ薄さだ。
 新作ではないが、ブルガリのオクト フィニッシモ ウルトラ COSCは、実物を見てもなおその薄さが信じがたい。わずか1.7mmだが、しっかりと時計としての感覚を保っている。“データマトリックス(ラチェット部分にあるQRコードのようなパターン)”は今でもあまり好みではないが、それ以外だと極端なオクト フィニッシモであり、それはまるでパスタローラーを何度もとおしたかのようだ。コンスタンチン・チャイキンのシンキングプロトタイプ(1.65mm)も見たかったが、彼は4月までに量産モデルを出すと約束している。今のところブルガリが依然として最薄量産時計であり、重要なのはフェラーリ×リシャール・ミルやチャイキンとは異なり巻き上げに鍵を必要としないことだ。
 “世界最薄”の称号を争う超薄型トリオのなかだと、今でもブルガリがお気に入りだ。実際の時計として見える点が大きな理由であり、しかもCOSC認定もされている! とはいえ、コンスタンチンの天才的な技術も否定できない。

ベルネロン ミラージュ 34はストーンダイヤルが特徴で、このイベントの主役となった。
 今週の主役は、おそらくベルネロンのミラージュ 34だろう。昨年38mmのミラージュを発表したシルヴァン・ベルネロン(Sylvain Berneron)氏は、非対称ケースを小型化し、より小さくて薄いムーブメントを採用した。しかし最大の変化はダイヤルにある。小型化されたミラージュでは、YGのモデルにタイガーズアイのダイヤル、ホワイトゴールドにはラピスラズリのダイヤルが使われており、どちらも驚くほど美しい。タイガーズアイは1970年代のシャギーカーペットと木製パネルのようなレトロ感を漂わせ、もうひとつのラピスラズリはクールでモダンな印象を与えている。近々ベルネロン ミラージュコレクション全体のハンズオンレビューもお届けする予定だ。

 最後に紹介するのは、先週のEditors' Picksでも触れたダニエル・ロートのローズゴールドトゥールビヨンだ。これが最大のサプライズだった。リローンチされたロートのトゥールビヨンを実際に見るのは初めてだったが、想像以上に素晴らしかった。1990年代のオリジナルトゥールビヨンに加えられた改良はわずかだが、しっかりと感じ取れる。サファイア製シースルーバックをとおしてムーブメントを確認した際、まず目に留まったのはブラックポリッシュ仕上げされたテンプ受けだった。完璧に仕上げられたそのディテールは、レンダリングやプレス写真では決して伝わらない美しさだ。全体の仕上がりは温かみがあり、ギヨシェ彫りも繊細で、すべてのパーツが見事に仕上げられている。ロートの美学は完全に自分好みではないが、実際に見たあとでは客観的に見ても美しいウォッチメイキング作品だと感じた。
 業界の苦境を伝える報道が続くなかでも、ベルネロン、ロート、レジェピ、さらにはアルビスホルンのような新作を見ると、機械式時計製造の未来は依然として明るいと感じさせてくれる。

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