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ラドー、カーヴィーな80年代の名作であるアナトムの40周年記念モデルを発表

“マスター・オブ・マテリアル”の異名を持つラドーが、マイアミで80年代に活躍していた腕時計の復活を発表した。その名もアナトムである。

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 2023年に蘇ったカーブを描くレクタンギュラーウォッチは、1983年に発表された初代アナトムにオマージュを捧げながらも、現代のラドーのデザインコードを用いることでまったく新しいバリエーションとして生み出された。私はこの発表のためにマイアミを訪れ、ブランドのCEOであるエイドリアン・ボシャール(エイドリアン・ボシャール)と少し話をしたのち、アナトムの遺産についてもう少し深く掘り下げる機会を得た。前日の夜に行われた小さなイベントで、彼は80年代の当時のアナトムを取り出し、間もなく発表される新作について簡単に語った。ブレスレットにツートンカラーのを乗せた、とてもクールで(文句なく)小さな時計だ。

 アナトムがいかに特別なモデルであったかは(ヴィンテージウォッチを見れば一目瞭然だが)、カーブしたケースと凸型のサファイアクリスタルが雄弁に語ってくれる。そして、ケースからインダストリアルなブレスレットへとシームレスにつながるデザイン。パッケージ全体がまさにラドーを象徴しており、モダンな時計製造に向けられたブランドの情熱が表現されている。

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 しかし、1983年に発表されたアナトムでさえも、同ブランドが築き上げてきたレクタンギュラーウォッチの伝統を受け継ぐモデルである。1960年代のマンハッタンから80年代のダイヤスター エグゼクティブまで、アナトムの誕生には20年以上の準備期間のようなものがあった。アナトムの発売からも、ラドーはシントラ、セラミカ、インテグラル、そして2020年のトゥルースクエアに至るまで、長年にわたってこのケースシェイプに深い愛情を注ぎ続けてきた。

 さて、2020年はブランドにとって重要な意味を持つ。というのも、ボシャールが(サーチナでの輝かしい在任期間を経て)CEOに就任した年だからだ。先日、ボシャールはラドーのプロダクトチームとの初めてのミーティングについて少し話をしてくれた。その時に彼は、ラドーが将来リリースするモデルのひとつとしてアナトムに照準を定めたのだという。かつてのアナトムはスティール製だったが、このモデルの基本方針は、ブランドのモダンなアイデンティティを尊重しつつも、素材にセラミックを採用するというものであった。このシェイプとフォルムを持つ時計をセラミックで作るのは、かなり困難であったことは想像に難くない。

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 そして今日、初代ダイヤスター アナトムの発表から40年を記念して、セラミック製の本モデルが発表された。この時計は、素材に熟達したブランドが生み出した最先端の進化であり、これまでにない新たな形で過去へのオマージュを表現している。過去との直接的なつながりにこだわるのではなく、バックミラーを覗いてウインクしながら、正真正銘のヘリテージを備えた真のモダンウォッチを創造することに重きを置いているのである。

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 オリジナルのダイヤスター アナトムから、現代的なトレンドに合わせて変更された点として、まずケースサイズが幅28mmから32.5mmに拡大されたことが挙げられる。ひと回り大きくなったものの、まだまだ控えめなサイズだ。ベゼルはマットブラックのセラミックだが、全体的な設計はシリンダー型のサファイアクリスタルと同じ曲線をとっている。

 オリジナルモデルではダイヤルに水平方向のストライプが施され、ブレスレットのラインと調和していた。今回の新作では、セラミック製ではなくラバーのストラップが採用されている(もっとも、このモデル用のセラミック製ブレスレットも製作中であることは間違いない)。ダイヤルは水平方向にサテン仕上げが施されており、ブルー、コニャック、グリーンの3色のスモーク加工が施されている。そして12時位置には、ラドーのシグネチャーであるアンカーが配されている(オリジナルには見られなかったものだ)。

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 ケースの全体的な構成として、ベゼルトップは前述のマットセラミック、ミッドケースはブラックPVDスティール製となっており、そしてスティールのスケルトンケースバックからはアナトムが1983年に搭載していたクオーツキャリバーとは異なる自動巻きムーブメントを見ることができる。このムーブメントは6時位置にデイト窓を備え、72時間のパワーリザーブを誇るラドーの自動巻きキャリバーR766である。

 アナトムのローンチ時に発表された3色のスタンダードカラーに加え、ラドーはブラックラッカー仕上げのポリッシュダイヤルと、11個のバゲットダイヤモンドからなるインデックス、そしてブラックダイヤルを背景にロジウムカラーのムービングアンカーモチーフを配した40本の特別限定モデルであるJubilé (日本での展開は未定)も発表する。

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 さて、この発表について私はどう思っているだろうか? デザインと美観という点では私の好みとちょっと違うかもしれないが、これはこれで素晴らしい。1983年のバージョンを目にし、デザインの歴史を理解したことで、40周年記念にフルモダンの外観を採用したブランドの確固たる意志に感銘を受けた。正直なところ、ラドーについて考えるときに頭に浮かぶのは次の3つの要素だ。キャプテン クック、スクエア、そしてセラミック。この3つのうちふたつは、今作でもカバーされている。

 私は昔から湾曲したレクタンギュラーケースが好きだし、この新しいアナトムは1980年代のオリジナルに必要以上に引っ張られることなく、21世紀らしいモダンなデザインを完璧に表現していると思う。この時計のオールメタル仕様を製作するのは簡単だっただろうが、今日の時計市場にはすでに多くの類似品が出回っている。

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 ラバーストラップがマットなセラミックケースとどのようにマッチするのか、腕につけて確かめてみるのが楽しみだ。着用感、視認性、そして総合的な感想については、近いうちにHands-Onで報告したいと思う。以上、マイアミより。

基本情報
ブランド: ラドー(Rado)
モデル名: アナトム(Anatom)
型番: R10202319(グリーン)、R10202209(ブルー)、R10202309(コニャック)

直径: 32.5mm(縦46.3mm、厚さ11.3mm)
ケース素材: マットブラックのハイテクセラミック製ベゼル、ブラックPVD加工を施したサンドブラスト仕上げのステンレススティール製ミドルパーツ、マットブラックのハイテクセラミック製リューズ、ステンレススティール製ケースバック、サファイアクリスタルのシースルーバック
文字盤色: ブラックにグリーン、ブルー、コニャックのグラデーション
インデックス: アプライド
夜光: あり
防水性能: 50m
ストラップ/ブレスレット: ラバーストラップ

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ムーブメント情報
キャリバー: ラドー キャリバーR766
機能: 時・分・秒表示、デイト表示
パワーリザーブ: 72時間
巻き上げ方式: 自動巻き
石数: 21

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価格 & 発売時期
価格: 52万9100円(税込)
発売時期: HODINKEE Shopにて購入可能(日本では2024年上旬に発売)
限定: Jubiléのみ40本限定(Jubiléは日本での発売は未定)

ヴァシュロン・コンスタンタンはレ・キャビノティエコレクションから大作“ラ・ミュージック・デュ・タン(La Musique Du Temps)”を発表した。

コレクターやプレス関係者が集まり、当然ながらチャイムの複雑機構を多用した時計のコレクションを目にすることになり、同時にこの分野で最高のアーティストたちによる最上級のエナメル細工やケースのエングレービングも堪能することができた。グラン・フーエナメルのミニッツリピーター・ウルトラシンのような作品の数々は、今でも私のお気に入りのモダンなチャイムウォッチであり続けている。まあ、あくまでも机上の空論だが。私は実物を見たことがない。見たことのある人はほとんどいない。これらの時計は基本的に事前に販売され、プレスに公開される前に顧客に公開されてきた。

ヴァシュロン・コンスタンタンのルーブル美術館コレクションよりピーテル・パウル・ルーベンスへのオマージュ。

それこそが、レ・キャビノティエをこれほどまでに際立たせている理由のひとつなのだ。“世界三大ブランド(Holy Trinity)”と呼ばれる時計メゾンは、いずれもユニークなピースを製作したりオーダーメイドを受けたりすることがあるが、ヴァシュロンほどアクセスしやすいメゾンはない。もちろん、それは経済的な観点から言っているのではない。これらの時計はすべて“要問い合わせ”だ(信じて欲しいが、私たちは何度も問い合わせたのだから)。しかし、レ・キャビノティエとして製作された作品の多くは、今年初めに私が撮影したピーテル・パウル・ルーベンス(Peter Paul Rubens)へのオマージュのように公開されている。そしてオーデマ ピゲやパテック フィリップとは異なり、レ・キャビノティエの時計を購入したりオーダーするためには、ブランドの大口顧客であったり、CEOと親友であったりする必要はない。ヴァシュロン・コンスタンタンのルイ・フェルラ(Louis Ferla)CEOに尋ねてみたところ、誰でもレ・キャビノティエの門を叩き、時計をオーダーすることができるとオフレコで答えてくれた。もちろんヴァシュロン・コンスタンタンは、クライアントが自分のアイデアを膨らませることができるように優しく指導しながら、何を作るかを調整する。しかし、もしあなたが特別なユニークピースをお望みなら、ヴァシュロンはいつでも相談に乗ってくれるだろう。

“ラ・ミュージック・デュ・タン” レ・キャビノティエ・ミニッツリピーター・ウルトラシン 2019年製。

レ・キャビノティエは、ヴァシュロン・コンスタンタンの最高の時計職人と専属の職人の手によるコレクションで、これまでカスタムオーダーに重点を置いてきた。しかし一般に発売されたこれらの時計は、顧客の需要と、言葉は悪いが、誰も持っていない時計を手に入れるための待ち時間の長さに対する焦りから生まれたものである。一部のコレクターにとっては、待つことで自分の意見が反映された時計が手に入るなら、そんなことはどうでもいいことなのだ。以下は私の好きなJ.G.ウェントワースの広告の引用だ。「それは私のお金だ、今すぐ欲しい(It's my money, and I want it now)」

「顧客に対して、“できますよ。でも3年、4年、いや5年かかります”と言うと、それは当然必要な時間なのですが、顧客基盤のかなりの部分を失うことになります。それでビジネスモデルを少し転換して、“ユニークで素晴らしい作品を年に1回コレクションする”と言うことにしたのです」とフェルラ氏は語った。

レ・キャビノティエの生産量の3分の2(わずか40~50本)は、このようなテーマに沿った作品と、年間を通して少しずつ発表されるその他の作品が占めている。そうすると、コミッション枠は13〜16枠しか残らない。残りは2022年から続く以下のような作品の製作にあてられている。

これらの時計は、ときに仰々しく過密なダイヤル装飾を伴うものの、非常に素晴らしいものだ。例えば、2022年に発表されたトリビュート・トゥ・バッカス(Tribute to Bacchus)は、(とりわけ)ワイン、豊穣、祝祭、儀式の狂乱を司る神に捧げる、時計に期待される華麗な装飾や複雑機構、享楽的な厚みをすべて備えていた。フィリップ・スターン(Philippe Stern)の顔をダイヤルに配したパテックの選択はさておき、ヴァシュロンはキャリバーとダイヤルのデザインにおいて特にバランスを重視しているようである。しかし、Cal.2755 GC16には16の複雑機構が搭載されているため、パテックのグランドマスター・チャイムと同じように、ヴァシュロンの時計製造の壮大さが少々大げさに感じられることがあるかもしれない。

ヴァシュロン最新のレ・キャビノティエ コレクション、レシ・ドゥ・ヴォヤージュ(または旅の物語)には、そのような要素は少ない。レ・キャビノティエにとってサイズという問題は依然としてあるが(このプログラム史上、38mm径より小さいサイズの時計は1本も作られていない)、ピーテル・パウル・ルーベンスへのオマージュが残したものを引き継いでおり、かさばる複雑機構よりも職人技術に重点が置かれている。

これらの新作は旅の素晴らしさを想起させながら、手首にその感動をもたらすことを目的としているが、ユニークピースであることに変わりはない。すなわち、単なるサンプルではなく、顧客の手元に届けられるものだ。そのため、リストショットやリストロールは撮れないし、手袋なしでの取り扱いはできない。私たちはまだすべての作品を見ることができておらず、それは以下の写真に写っていないいくつかの作品が今日ソーシャルメディア上で公開されていることからも明らかだ。しかし、裏を返せば、これらの時計がすでに売られてしまう前に見ることができるということでもある(この記事をここまで読むころには事情も変わっているかもしれないが)。それではさっそく旅に出よう。

レ・キャビノティエ・ミニッツリピーター・トゥールビヨン-アラベスク様式への賛辞-とミニッツリピーター・トゥールビヨン-アールデコ様式への賛辞-

ヴァシュロン・コンスタンタン レ・キャビノティエ・ミニッツリピーター・トゥールビヨン-アールデコ様式への賛辞”

私がこのプレスリリースを入手したときから、これらの時計がショーの主役であることは明らかだった。ヴァシュロンは手巻き式のトゥールビヨン・ミニッツリピーター、Cal.2755 TMRを大きく異なるふたつの方向へと進化させたのだ。そのデザインは、私の現在の本拠地であるニューヨークと、今回のお披露目の場所となったエミレーツを結ぶもので、数々のハイエンドで繊細な工芸技術を披露している。

左は“アラベスク様式への賛辞”であり、アーティストたちが何世紀にもわたって歴史的なイスラム美術から着想を得てきた、アブダビのシェイク・ザイード・グランド・モスクにあるイスラームの美術作品や唐草模様、小花模様からインスピレーションを得たものである。ヴァシュロンと中東とのつながりは古く、1817年にはオスマン帝国の富豪たちに時計を供給していた。このダイヤルは、部屋を仕切ったり、建物の外壁に見られたりするマシュラビーヤのスクリーンをモチーフにしている。透かし彫りと彫金が施されたホワイトゴールドの“格子細工の装飾”が、ラインエングレービング技法による彫りの深いマットな質感の黒の背景とコントラストをなしているのがわかるだろう。ホワイトゴールドのプレートは薄く、細かいディテールが要求されるため、ダイヤルの完成だけでも1カ月を要したという。

細密画のような職人技を見てこれでもまだもの足りないというなら、“アールデコ様式への賛辞”のダイヤルはどうだろう。これを間近で見て、私は圧倒された。ヴァシュロンが寄木細工と彫金七宝を組み合わせたダイヤルを製作したのは、これが初めてのことだ。そのデザインは、尖塔のデザインからエレベーターのドアに施された木製の象眼細工に至るまで、紛れもなくクライスラー・ビルにインスパイアされている。ピンクゴールドのケースにはペアウッドとチューリップウッドの対照的な模様があしらわれている。そのダイヤルには“パール”のミニッツトラックと11個のファセットダイヤモンドのアワーマーカーが配され、6時位置に近いものがもっとも長く、12時位置に近づくにつれて徐々に短くなっている。これは、トゥールビヨンが見えるために下部が重たくなりがちな時計のデザインのバランスを保つものだ。

“アラベスク様式への賛辞”のホワイトゴールドケースの側面には有機的なインタリオ彫刻が施されているが、その他の大部分は幾何学模様で覆われている。エングレービング作業には3カ月を要し、最高で10分の1mmの刻みが施されている。ピンクゴールドの“アールデコ様式への賛辞”のスタイルは全体的に極めて幾何学的で、驚くほど複雑なヘリンボーンモチーフが施されており、時計を(優しく)手にしたときに光を反射する。それぞれの時計は、バックルにまでエングレービングが施されている。

ケースやダイヤルに多くの職人技が注ぎ込まれているため、内部のキャリバーはほとんど後付けのようにも見えるが、それ自体は実に見事なものだ。Cal.2755 TMRはとても美しいミニッツリピーターの音を奏で、直径33.9mmに厚さ6.1mmと比較的小さい。裏返してケースバックからムーブメントを見ると、ヴァシュロンがこの時計を直径44mmに厚さ13.5mmと縦横に大きくサイズアップしていることがわかる。レ・キャビノティエの時計は、職人の芸術性を表現するためのキャンバスである、というのが私の主張だ。私はヴァシュロンに対して、ミニマリズムとより小さなサイズへの挑戦が、さらなる芸術性を示すことができると提案をしたい。私はおしゃべり好きだ。写真を選べないことが多いので、結局、ドバイ・ウオッチ・ウィークのフォトレポートでは200枚以上の写真を掲載することになった。しかし、過ぎたるはなお及ばざるが如しということで、私は実機を触っているあいだずっと、ヴァシュロンはこのことを肝に銘じるべきだと考えずにはいられなかった。ヴァシュロン・コンスタンタン レ・キャビノティエ・ミニッツリピーター・トゥールビヨン-アラベスク様式への賛辞。

レ・キャビノティエ・グリザイユ・ハイジュエリー-ドラゴン
この時計は、複雑な時計製造から少し遠ざかるための口直しのようなものなので、これ以降Hands-Onレビューを手短にする口実にさせてもらおう。レ・キャビノティエ・グリザイユ・ハイジュエリー-ドラゴン-は、ヴァシュロンの超薄型キャリバー1120を採用し、直径40mm、厚さ8.9mmのホワイトゴールド製ケースに7.1カラットのバゲットカットダイヤモンドをあしらったモデルである。

ジェムセッティングを施した時計の芸術性を評価するようになった(そしてたまには愛せるようになった)私だが、このダイヤルを完成させるのにどれほどの才能が要求されるかは想像に及ばない。ヴァシュロンがジェムセッティングとグリザイユ・エナメルを組み合わせたのはこれが初めてで、ヴァシュロンによる写真ではダイヤルはグリーンの趣が強かったが、実際に目にするとよりブルーっぽく見えた。ともあれ、ナメル細工の色彩の豊かさとコントラストは傑出しており、伝統的なグリザイユ・エナメル細工よりも鮮やかであった。

次はトゥールビヨンに話を戻そう。レ・キャビノティエ マルタ・トゥールビヨン-オスマン様式への賛辞-だ。その名が物語るように、トノー型ムーブメント2790 SQが搭載された同じくトノー型のこの18Kピンクゴールド製ケースは、特徴的な独自のスタイルでパリの活性化と刷新を指揮したバロン・ハウスマン(Baron Hausmann)からインスピレーションを得ている。

ケースにはオスマンスタイルのファサードを想起させるシャンルベ装飾などさまざまな技法が施され、 ムーブメントのモチーフはエッフェル塔の金属構造を想起させる。ケースサイズは縦41.5mmに横38mm、厚さ12.7mmとなっている。

レ・キャビノティエ・アーミラリ・トゥールビヨン-アールデコ様式への賛辞-
この時計のムーブメントに見覚えがあるとしたら、あなたは鋭い観察眼を持っている。このアーミラリー・トゥールビヨンは瞬時に切り替わるバイレトログラード式の時・分表示を備え、2軸のトゥールビヨン・レギュレーターを搭載したムーブメント1990を搭載しており、世界で最も複雑な時計と称される巨大なヴァシュロン57620の技術的功績を受け継いでいる。さらに最近では、このムーブメントはロールスロイスのために製作されたカスタムウォッチに搭載されている。

イエローゴールドのケースには精巧なエングレービングが施され、ダイヤルにはアールデコに影響を受けた素晴らしいデザインが施されているが、その視認性はロールスロイスのそれと比べるとかなり低い。また、直径45mm、厚さ20.1mmというこの大ぶりな時計は、ダークなダイヤルにダークな針が配され、比較的判読しにくい印象を受けた。私はヴァシュロンが好きだが、この時計は私にとってはもの足りなく思えた。このブランドに期待される洗練されたものよりも、もっと派手であまり技術的でない会社から発売される大型の時計により近いと感じたからだ。もっとも興味深かったのは、下に見えるトゥールビヨンと球形ヒゲゼンマイのための覗き窓だった。技術的な面ではおもしろい時計づくりだが、残念ながら少し実用的ではないようだ。

レ・キャビノティエ-メモラブル・プレイセズ-
Les Cabinotiers – Memorable places
レ・キャビノティエ-メモラブル・プレイセズ-

上記の時計の対極に位置し、ブランドのエングレーバーが新たな手法を用いて、ミニマリスト(あるいは “ミナチュリスト minaturist”とでも言うべきか)のそれとはまったく異なる形で思い出深い土地に捧げられた4つの作品がある。これらの時計は前に紹介したドラゴンウォッチと同じCal.1120を搭載し、直径40mmに厚さ9.1mmというやや厚めのケース(ホワイトゴールドまたはピンクゴールド製)を備えているが、その厚みを生かしてジュネーブから極東までの風景を描いた素晴らしいエングレービングが施されている。

3色のゴールドダイヤルに彫り込まれた小さな人物や犬、象、そして漢字といったディテールを堪能して欲しい。それぞれのダイヤルは、イエローゴールド、ホワイトゴールド、ピンクゴールドから切り出された複数のプレートからなり、絵画に描かれたさまざまな色の要素を構成している。プレートの厚さは0.4~0.8mmで、アーティストが彫る際の彫りの深さは10分の1mmから10分の2mmを超えることはない。そして、200時間以上という長い時間をかけて1枚のダイヤルが作られることになる。

顧客は4つの風景から時計を選ぶことができる。1875年にメゾンが近くのケ・デ・ムーラン(Quai des Moulins)に移転するまでの約30年間、ヴァシュロン・コンスタンタンとその工房があった “トゥール・ド・リル(La Tour de l’Île)”には、先ほど紹介した愛らしい犬が描かれている。“アンコール・トムの入口門(The Entrance Gate to Angkor Thom)”は、ルイ・ドラポルテ(Louis Delaporte、1842-1925)が描いた南門からインスピレーションを得ている。PG、 YG、WGのプレートに9つのエングレービングとダマスク装飾が施され、すべてのダイヤルのなかでもっとも奥行きがあるデザインとなっている。そして“オールド・サマー・パレス(Old Summer Palace)”は1873年の彫刻で描かれた清朝王宮の庭園文化、その建築、彫塑、装飾、園芸への頌歌だ。エングレービングとダマスク装飾を施したわずか8枚のプレートで、ほぼ同様の奥行きを表現している。最後に、“孔子廟とインペリアル・カレッジ・ミュージアムの入り口門(Entrance gate to Confucius Temple and Imperial College Museum)”の図柄は、1864年の旅行記に掲載されたエミール・テロン(Emile Thérond、1821-1883)のデッサンによる。

今回のヴァシュロンの“レシ・ドゥ・ヴォヤージュ”のテーマのなかでもっともわかりやすく、連想しやすいのがこれらかもしれない。ヴァシュロン・コンスタンタンからはあまり深読みしないで欲しいと言われたものの、中国をテーマにしたふたつのモデルが登場したことは、現代の時計界における中国市場のパワーを物語っているように思える。

これらは素晴らしい芸術作品だが、どのテーマにも個人的なつながりはなく、私の心は最初に多くの 時間を共にしたトゥールビヨン・ミニッツリピーターに回帰し続けていた。そのどちらでも好きなパッケージの時計を選ぶことができ、視覚的に楽しませてくれるだけでなくインスピレーションとデザインを感じ取ることができる。パンデミック中は家にいる時間が長かったため、旅行することが当たり前とは思っていないが、レ・キャビノティエのアラベスクやアールデコのリピーターが呼び起こす自分だけの物語やつながりを創造し、自宅でイマジネーションを膨らませることだって今は同じくらいに幸せだ。まあもっとも、ヴァシュロンには何の損失もない。これらの時計は私の手には負えない価格帯であることに加え、おそらくすでに新しい住処へと向かっていることだろう。

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時計の世界における文化的な進化を示すものなのだろうか。それとも一瞬の出来事なのだろうか。

先週の木曜日、時計メディア、インフルエンサー、セレブリティグループが、オーデマ ピゲとトラヴィス・スコット(Travis Scott)とともに1日を過ごした。同僚のプレス関係者と私は、店舗占拠、製品発表会、そしてシークレット・ショーに出席した。しかし、私は個人的な倫理的危機の真っ只中にいることに気づいた。私はこのコラボウォッチレビューを実際の製品で行い、文脈についてのコメントを丁重に断るつもりだったのだろうか? それとも、今回のような立ち上げに際して必ず出てくる難問に、HODINKEEが身を乗り出す必要があるのだろうか? なぜトラヴィス・スコットなのか? なぜヒップホップと手を組んだのか? これを誰が気にするのか?

Travis Scott Cactus Jack Royal Oak LE
 まず私が“アンチ・エスタブリッシュメント”(従来の習慣を支持する人・モノを反対すること)疲れを抱えていることを先に述べなければならない。私はこの限定版ロイヤル オークを、公平性の問題にするのではなく、独自の技術的・美的なメリットに基づいて分析したいと強く願った。しかし時計業界全体、時計メディアの状況、ときには一緒に仕事をしている人たちのあいだにさえ、このような考え方が蔓延している。変化に適応できない、あるいは何か新しいものが現状に対する侮辱ではないと考えることさえできない愛好家や専門家を見つけるのは難しくない。

 その偏見はしばしば覆い隠され、時計の種類から販売方法まで、私たちは何が重要で何が重要でないかについての無意味なレトリック(情報を発信する側が効き手側を説得する手法)に移行することを余儀なくされる。もちろんその言説はブランドの経営幹部の気まぐれである。これでは本物の愛好家は高級品業界の攻撃的なヒエラルキーに翻弄され、その結果コミュニティ間で非常に厳しい意見を生み出すことになるのだ。

AP x Cactus Jack Store takeover
 だから、オーデマ ピゲがヒューストン生まれの32歳のラッパー、トラヴィス・スコットと、彼のレコードレーベルであるカクタスジャックとコラボすると聞いたとき、当然のことながら、私は腰を上げて注目をした。私がトラヴィス・スコットのファンだからというだけでなく、これは紛れもなくひとつの文化的瞬間だったからだ。アメリカ最大の文化輸出品であるヒップホップが、今やスイスの高級時計業界に“公認”、共同署名され、影響を与えていることが目に見えた日である。2005年のジェイ・Z(Jay-Z)とのコラボレーションを考えれば、オーデマ ピゲのラウンド2と呼ぶ人もいるかもしれない。しかし、その考えは短絡的だ。オーデマ ピゲはジェイ・Zのようなアーティストとトラヴィス・スコットのようなアーティストの違いを見分けるのに十分な知識を持ち合わせている。彼らは25歳近く離れ、異なる音楽を作り、異なるオーディエンスの注目を集めている、別のアーティストなのだ。

 歴史的なレンズをとおして見ると、ジェイ・Zのときの限定オフショアは、21世紀の時計デザインのなかで最も重要な時計のひとつであった。確かに、当時ジェイ・Zの10周年を記念したオフショアは、ハリウッドやスポーツと交差する無数のオフショアリミテッドエディションとともに人気のあるリリースだった。ただジェイ・Zの時計は、はるかに重要なものを意味するようになった。それは高級時計製造におけるレガシーブランドと、史上最高のラッパーのひとりとの融合だ。当時、彼自身のキャリアはわずか10年だったがすでにヒップホップ界の重鎮として君臨し、私たちの世代で最も重要な文化的人物のひとりとなる道を歩んでいた。

Jay Z 10th Anniversary LE AP
Image: courtesy of Christie's

 この時計のリリースは、ヒップホップとラグジュアリーの“公式な合併”であり、オーデマ ピゲの現CEOであるフランソワ-アンリ・ベナミアス(François-Henry Bennahmias)氏はこの偉業を誇りに思っている。「ビフォーとアフターがありました」とベナミアス氏は言う。「オーデマ ピゲの世界や時計製造の世界だけでなく、ラグジュアリーの世界にも」。ジェイ・Zとブランドのコラボレーションは、ベナミアス氏によるオーデマ ピゲの全体的な先進的姿勢を象徴するものとなり、ラグジュアリーブランドが最終的にどのような方向に向かうのか、鋭く予言していた。

 ジェイ・Z、ファレル(Pharrell)、タイラー・ザ・クリエイター(Tyler the Creator)ら(彼らは皆、何らかの理由で、ヒップホップを楽しむ大衆に“受け入れられる/よろこばれる”人物とみなされてきた)以外のメインストリームヒップホップアーティストにも、腕時計をコレクションしている人たちがいることを思い出して欲しい。おそらく、これらのラッパーはあなたの琴線に触れないかもしれないが、彼らは時計に興味のある、多くの個人の願望や嗜好を、ときにはライフスタイルやデザインの角度から定義している。ところで、それは機械の理解と歴史への愛着を持ってこの趣味に取り組むことに劣らない美徳である。この層は、時計に興味のある傍観者だけで構成されているわけではない。今日の脆弱な市場で時計のエコシステムを維持するために、完全に必要なものなのだ。彼らは歌詞にイメージを使ったり、ゲッティに届く前に写真を掲載したりすることでこの趣味を売り込んでいるほか、Instagramに投稿される、腕時計を探すための高度なキュレーションされたフィードに投稿をしている。彼らは、多くの人が必死にしがみつき、私的な聖域として存在しようとしているサブカルチャーの歯車を回し続けている。“本物”の愛好家は、このカテゴリーの消費者を見下している。特にウォッチスポッティングのコメントを見ていると、“ひよっ子は下がってろ”的な状況になっていることが多い。

TRAVIS SCOTT Cactus Jack AP LE
 大局的な意味で、つまり私たち全体を見据えた意味だと、オーデマ ピゲがここで何をしているのか、コンセプトカーのなかにあるブラックパンサーやスパイダーマンのミニチュア彫刻と同じように正確に把握している。トラヴィス・スコットはスーパースターだ。彼はこの世代のラッパーであり、ヒップホップ界で最も若いビジネスリーダーのひとりであり、カーダシアン&ジェンナー家のふたりの子どもの父親であり (セレブの大空で彼を不滅にしている) 、グラミー賞に10回ノミネートされたアーティストであり、マルチプラチナレコードを達成したメガスターである。彼は真の実力者だ。

Travis Scott portrait
Image: courtesy of Audemars Piguet

 スコットはポップカルチャーの世界に慣れていないわけではない。彼は2015年に音楽をリリースし始め、カニエ(Kanye)のプロデューサーであるマイク・ディーン(Mike Dean)のような業界トップのおかげで注目されるようになった。ジャンルの好みやラップ音楽への思いに関係なく、作品的にスコットの音楽は文句のつけようがない。ジャーナリストでありニューヨーク・タイムズ紙のポップミュージック評論家、ジョン・カラマニカ(Jon Caramanica)氏は、「(しかし)トラヴィスのセレブリティは音楽的成功を凌駕するかもしれません」と語る。「インターネットが発達したヒップホップ時代には、ストリーミング楽曲で大成功を収めても、自分をフォローしてくれる人たちの輪の外では極端に知られていないことがあります。トラヴィスはある意味、その逆かもしれません」

 スコットはナイキ、マクドナルド、ディオールなどのブランドとコラボレーションしてきた。2020年の米郵政公社危機の際には、トラヴィス・スコットの切手がUSPS(アメリカ合衆国郵便公社)を救うと、ザック・ボーマン(Zach Bowman)の冗談めいたツイートが拡散された。私はくすぐったくなったと同時に、同意したい気持ちもあった。トラヴィス・スコットは企業ブランドの囁き手だ。もし彼がマクドナルドにクォーターパウンダーをもっと売らせ、カクタスジャック×ナイキ・ジョーダンのリセールバリューを元の小売価格の400%アップさせ、オーデマ ピゲのパーペチュアル カレンダーのムーンフェイズ表示に実際のカクタスジャックロゴを入れることができれば...彼の勝利だ。

Travis Scott Performing
Image: Getty Images

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 先週のリリースの際にはふたつの製品が登場した。主力商品は、“チョコレート”ブラウンセラミックでリリースされた限定版ロイヤル オーク パーペチュアル カレンダー オープンワークだ。200本の限定で、価格は20万1000ドル(現在すべて予約・売約済み)。文化的な関連性はさておき、時計自体に興味がなければ、心からそれを認める覚悟はある。しかし、私は本当に気に入っている。スコットがこの色を“カクタスジャック”と名付けたように、チョコレートブラウンは、少なくともファッションにおいては本当に誤解されている色のひとつだ。しかし、イッセイ・ミヤケやグッチ在任中のトム・フォード(Tom Ford)が証明しているように、正しく行われた場合はその勇気に対するバロメーターとなる。ミウッチャ・プラダ(Miuccia Prada)は、“醜いもののなかにある美しさ”を信条としており、クールで峻厳なブラックに、豊かで暖かみのあるブラウンをよく組み合わせているが、それはある種素っ気のない“ファッションではない”ものだ。ブラウンは基本的に美的なニュアンスを楽しむ人向けの色だ。プラダ夫人がそうしているのなら、私たちもよろこんで従うべきである。

Travis Scott Cactus Jack Royal Oak LE
 時計自体は明らかに、多くの人が“ラッパーにぴったりのジュエリー”と認識するよう進化したコンセプトだ。このフレーズの順番にはたじろいでしまうが、今日は当たり前のことを叫ぼう。この時計には宝石がひとつもついていない代わりに、私たちが目にするのはオーデマ ピゲとカクタスジャックの真のハイブリッドである。トラヴィス・スコットの手描きスケッチに基づき、特別にデザインされたカレンダーと週表示のタイポグラフィ、曜日のインダイヤルの針がブランドのロゴの形をしているなど、カクタスジャックのグラフィックを参照したデザイン要素が多数盛り込まれている。なかでも最も目につくのは、6時位置にあるムーンフェイズデザインである。通常の地球の衛星表現は、カクタスジャックの象徴である口を縫ったスマイリーフェイスに取って代わられたほか、ブルーとグリーンのコントラストが美しくもかなりイカした夜光を備える。クラブにふさわしい時計だ。

Travis Scott Cactus Jack Royal Oak LE
Travis Scott Cactus Jack Royal Oak LE
 それからストラップがあるが、これは天才的だと思う。この時計をブレスレットにつけていたら、まったく別のものになっていただろうから。ブラックセラミック、フルブレスレットのロイヤル オーク オープンワークも好きだが、このデニムストラップは素朴で意外性があり、セラミックの素材感を引き立てている。ミウッチャ・プラダがブラウンブラウスにブラックショートパンツを合わせたように、意外性があり、脱構築的で洗練されていない感じを与える。そうすることで物事が少しカジュアルになり、ニュアンスが変わるのだ。それはマルタン・マルジェラのデコンストラクションのような、あるいはあえて言えば、カニエの簡素化されたイージー(カニエが手掛けたブランド)の美学をほうふつとさせる。とても現代的だ。チョコレートブラウンのフルセラミックモデルが出てきても、私は決して怒らないだろうし、それは(共同ブランドではなく)今後出てくるかもしれないとも想像している。しかし、ストラップがあることで、従来のオーデマ ピゲ セラミック ロイヤル オークの要素の一部ではなく、カクタスジャックのようになる。

Travis Scott Cactus Jack Royal Oak LE
 この時計はオフショア(回帰)でも、CODE(強引に押し出す)でもない。そう、これは今業界で話題を集める素材、セラミックでできているが、モデル自体は本質的な“トレンディ”ではない。ブレスレット一体型ではなく、ストラップ付きのロイヤル オークなのだ。また高級時計製造において歴史的に権威のあるモデルだ。Cal.5134の進化版であるCal.5135は、オーデマ ピゲのパーペチュアルカレンダーを大幅にオープンワーク化したものである。最初にリリースされたブラックセラミックは、審美的効果を最大限に高めるための近代的な改良として、意図していたものだった。カクタスジャックリミテッドエディションはカッコいいし、オーデマ ピゲが最も得意とする複雑時計製造の証でもある。「パーペチュアルカレンダーは、私たちのDNAの一部です」と、オーデマ ピゲのコンプリケーション部門長であるアンヌ-ガエル・キネ(Anne-Gaëlle Quinet)氏は言う。「私はこれがアンティークコンプリケーションであるという事実が大好きです。パーペチュアルカレンダーは400年前から存在しています。古いものと新しいもの、ふたつの世界が融合した完璧な組み合わせなのです」。伝統的なコンセプトを正しくリミックスしている。

Travis Scott Cactus Jack Royal Oak LE
Travis Scott Cactus Jack Royal Oak LE
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 そしてもちろん付属品もある。“トラヴィス・スコットのウェブサイトのみで販売される服やアクセサリーの限定コレクションの一部収益はスコットが選んだチャリティ・プロジェクトや大義に寄付される”。このチャリティが何なのかが分かれば素晴らしいが、ここでの取り組みをいったん理解しよう。

 この商品は新しいオーディエンスを開拓し、すでに歌詞からオーデマ ピゲのことを知っているが、どうやって参加すればいいのかわからないという普段と異なる消費者にもアプローチしようとしている。この時計は明らかに手軽なものではないし、金銭的にも到達は困難だろう。それは言うまでもない。この時点で、私たちはウェイティングリスト/アウトプライスゲームに慣れている。

「そこに“お金がある”かどうかはわかりません。ただ、トラヴィス・スコット、カクタスジャック、オーデマ ピゲと書かれたシャツを着て歩くなんて、10年、20年前に横行していた非公式のような夢物語です」と説明するカラマニカ氏。「どのような種類のコラボレーションであれ、そこには“潜在的消費者”の層が存在します。時計を買って、シャツを買って、コアなものを買う。そうすれば参加したことはないけれど、仲間にこのことを知らせたいという人が出てくるでしょう。小さな独占権を手に入れ、それを身につけ、周囲に自慢する方法として製品を利用するのです」。商品は補助的なものだ。時計を買う余裕がないので、次善の策としてこれを買う。カクタスジャックのブランディングはさておき、これはeBayでロレックスのベースボールキャップやポロシャツを買う人たちと変わりはない。ブランドと文化の一致なのだ。


 なぜ時計業界はポップカルチャーと足並みをそろえる必要があるのか? なぜブランドは時流に身を置かなければならない立場にあるのか? 2020年、雑誌フォーブスは、スコットが「大手企業のブランド再考を支援し、セレブと企業の付き合い方を変えている」と報じた。このコラボレーションから明らかなように、スコットは企業に何をすべきかを指示しているのであって、その逆ではない。オーデマ ピゲが文字盤に外部ロゴを入れたのは、2000年代初頭のオフショア・アリンギ以来となる。それ以前に外部ブランドのロゴが使用されたのは、オフショアボートのチーム(伝統的な腕時計を身につけている人たち)だけだったという事実は、この業界がいかに二極化しており、社会的な溝がどれだけ広いかを物語っている。

 今の状況は、2005年のときと計り知れないほど異なる。これはファンだけでなくアーティストにも言えることだ。「ヒップホップはクワイエット・ラグジュアリーの時代を迎えています」と、『Ice Cold: A Hip-Hop Jewelry History』の著者、ヴィッキー・トバック(Vikki Tobak)氏は説明する。「時計は、より成長した美学を体現しています。ヒップホップの世界ではもう少し上級者向けのものなのです。彼らはダイヤモンドのネームプレートチェーンを依頼するつもりはないと思いますが、時計は買うでしょう」。それはもはや“成功”の物語ではなく、むしろ“私はここに留まり、さらなる成功をキャッチし、役員室での会話をリードするためにここにいる”という物語なのだ。

Travis Scott Cactus Jack Royal Oak LE
 今回のようなコラボレーションには、潜在的な落とし穴がある。私が最初に感じたのは、このリリースがブランドの不安を引き起こしたというものだった。パニックに陥ったような状況だ。カラマニカ氏もこれに同意している。「これは歴史的に、常に自社製品について話しているわけではないオーディエンスに対して、自社製品の認知度が高まっていることを理解することへの不安を反映しています。これは“コラボこそ正しいブランディングアプローチだと誰かが教えてくれた”という物の見方にあります」

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 これは何の根拠もなく関連性を維持するための試みだったのだろうか? ベナミアス氏は、トラヴィスは確かにコレクターの世界の一部だと主張している。「トラヴィスに初めて会ったとき、彼はすでに私たちの時計を8~10本所有しており、私たちから直接購入していました。なので彼が誰であるかを知っていました。外から見つけてきたジェイ・Zと比べて。これは大きな違いです」。彼はこう続ける。「10回中9.9回は、すでに顧客だった人たちと提携してきました。なぜなら、彼らがすでにクライアントであれば、ああ、私はあなたにXX円払うから、これが最も美しいと言ってくれと伝える必要がないからです。まさにオーガニックな循環なのです」

FHB and TRAVIS SCOTT
Image: Getty Images

 スコットの音楽ファンや消費者は、彼のブランドが美的に何を表しているのか、必ずしも完全には理解していないかもしれないが(それはサウンド的にもビジュアル的にも変化しやすいのだ)、スコットのブランドは間違いなく、彼の遍在性と懐に入りこむ能力にある。この種の成功は、真にクリエイティブな才能を持つ人たちへの非難と読むこともできるし(私はよくそうする)、政治的な現状の変化をポジティブに反映していると読むこともできる。その両方だと考えるのが最も賢明なアプローチだ。ラッパーがこれらのカテゴリーに進出し、彼らの背後にいるファンがこれらのカテゴリーに触れ、興奮するにつれて、ラグジュアリーブランドは岐路に立たされている。それは彼らに「私たちは今までと同じように毅然とした態度で臨み、彼らが私たちのところに来てくれることを願うのでしょうか? それとも意地を見せるのでしょうか?」と尋ねることになる。

 この時計は誰のためのものなのか? ファン? コレクター? ふたつの中間にいる人? 「ヒップホップは依然としてラグジュアリークラスの音楽であることを忘れてはならない」とカラマニカ氏は指摘する。リッチな場所で夏を過ごし、プライベートジェットで頻繁に旅行をして、絵に描いたような自分の完璧な写真(バーキンをしっかりと手に持ち、足元にはゴヤールのキャリーバッグを計画的に積み上げている)を自分のソーシャルメディアにアップロードする、新しくモダンなラグジュアリー層だ。おそらく豪華なライフスタイルを送り、トラヴィス・スコットの音楽と理論的で美的な立場に非常に精通している若い人だろう。「もしそれが従来の時計購入層と重ならないのであれば、それはオーデマ ピゲのような企業にとって最善の利益になるでしょう。というのも次世代のコレクターを育成するには、それ以外に方法があるでしょうか?」

タグ・ホイヤーの新型カレラ、通称“グラスボックス”は、間違いなく同社のターニングポイントとなる時計だ。

この39mmのカレラ グラスボックスのどこに注目すべきなのか、3つのポイントにまとめてみた。また、現在タグ・ホイヤーを率いている、CEOのフレデリック・アルノー氏から直接伺った話を含め、僕なりに本作がいかに特別な時計なのかを考察してみたいと思う。

 

1 数字以上に優れたサイジング
 近年のカレラはたびたび39mmというサイズでリリースされている。小型化のトレンドを受けたものではあるものの、このグラスボックスからケースがさらに工夫してシェイプされ、フィッティングが明らかに進化しているのだ。カレラ60周年アニバーサリーモデルなどで用いられた39mmケースはストレートに近いラグ形状で、短くて角度がついているが“腕に沿う”というほどではなかった。それが本作では、ラグをわずかにカーブさせたことにより着用者を選ばずつけやすくなった。さらには、ラグトゥラグのサイズにいたっては、カレラ60周年アニバーサリーモデルが47.7mmであるのに対し、46mmまで詰められた。これは実質的なサイズダウンであり、クロノグラフウォッチといえど、袖口に収まるようなスタイルを目指したのだと思われる。


2 オリジナルへのオマージュも感じるデザイン
 デザインにおいてはなんといっても大型の風防、通称“グラスボックス”を採用したことが最大の特徴だ。これまでのクラシカルデザインを用いたカレラも、大型のドーム風防を合わせることが慣例だったが本作の風防は特に際立っている。ケースの際まで覆うように配された“グラスボックス”は、サイドから見たときに煌めきを増すだけでなく、ケースをより薄く見せるような視覚効果ももたらす。この形状に合わせてタキメーターが印字されたフランジ部分は、別体パーツを用いて大きく隆起しミニマルな文字盤に視認性と個性を与えている。

 なお、非常に珍しいのが、文字盤の色によってダイヤルレイアウトが少し変化するのだが、それもまた画期的だ。ベースとなる黒と青文字盤で表情が変わるのだ。6時位置にデイト表示があり2カウンターのようなデザインの青に対し、黒文字盤ではデイト表示が12時位置(通称DATO:ダートだ)に変わり、いわゆる3つ目デザインとなる。同社内でヘリテージカレラの研究も進んでいるからこそ、過去の特徴的な意匠が盛り込まれたのだ。


3 地道な進化を遂げたムーブメント
 最後に、ムーブメントについても触れておくのだが、これはあくまで序章に過ぎないのかもしれない。HODINKEE読者ならば、現在タグ・ホイヤーでムーブメント開発の指揮を執る人物がキャロル・カザピ氏であることはご存知のことと思うが、彼女が監修したムーブメントに本作から切り替わっている。ただ、このCal.TH20-00は、厳密にはこれまでCal.ホイヤー02(そして古くはCH80)と名乗っていたムーブメントの改良版だ。パートごとに調整が入り、巻き上げ方式が両方向になったり一部の歯形が変わったりしているものの、基本的には同じものだ(日本の時計師にも話を聞いたが、やはり大きな変化はないそうだ)。ただ、カザピ氏の設計思想としては、非常に強固かつパワフルなベースムーブメントを開発したうえで、コンプリケーションまで展開するという特徴がある。その意味では、就任間もない現時点はまだ地ならしのような段階なのかもしれない。

 改良されたCal.TH20-00の行く末がカレラなのかモナコなのか…。タグ・ホイヤーのアイコンモデルで驚くべきコンプリケーションを見ることができるのは、おそらくそう遠い未来ではないはずだ。

 さて、本レビューの詳細はぜひ改めて動画で確認いただきたいものの、最後に強調しておきたいことがある。それは、タグ・ホイヤーにとってシグネチャーであるカレラがこれほどまでに大変革を遂げられたのは、CEOであるフレデリック・アルノー氏の手腕によるところが大きい。今回のアップデートは、時計好きの人にとってはガラリと変わった大きなものに映ると思うが、デザインとしてはよりミニマル方向へと舵が切られたものだ。いわば、これからの時代のベーシックとなるようなもので、短期的には大きく売上に貢献するようなものではないだろう。フレデリック氏がアルノー家の人間であることが作用しているのは間違いないが、それ以上に彼の覚悟の結果がこのグラスボックスに表れていると思う。

ポロは、ピアジェ初となる特定のモデル名を冠した時計であり、

この事実がポロについて知っておくべきことのほとんどすべてを説明してくれている。

「ピアジェは当時、モデル名に強く反対していました」と、ピアジェのパトリモニー(遺産)・オフィサーであるアラン・ボルジョー(Alain Borgeaud)氏は説明した。「彼らは常に、ブランドを第一に考えていたのです」。しかし、このデザインはピアジェの大胆かつ新しいスポーツシックな方向性を示すものであり、またブランド初のスポーツウォッチには名前が必要だった。少なくとも、米国代理人はそう主張した。当時、ピアジェはパームビーチで開催されたポロ・ワールドカップのスポンサーだったため、“ポロ”という名前は理にかなっていた。

そして1979年、ピアジェ ポロが誕生した。

ここ数年コレクターのあいだでヴィンテージピアジェへの関心が高まっている中、今年はピアジェの150周年となり、今はこれ以上ないタイミングである。ストーンダイヤルから極薄時計の製造まで、ピアジェは20世紀半ばのパイオニアだ。しかし、ほかの時計とは一線を画すものがある。それがポロだ。

 このコレクターズガイドでは、1979年に発表され、90年代初頭まで生産された初代ピアジェ ポロを詳しく紹介する。それは『カジノ(原題:Casino)』に出演したロバート・デニーロ(Robert DeNiro)氏の手首や、またアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)、ブルック・シールズ(Brooke Shields)氏、ビョルン・ボルグ(Björn Borg)氏、その他多くの実在する人物の手首を完璧に飾り、瞬く間に時代のアイコンとなった。

 近年、ポロの人気が再燃している。これまでと同様、シルヴェスター・スタローン(Sylvester Stallone)氏が『タルサ・キング(原題:Tulsa King)』でポロをつけ、またコートサイドに座ったマイケル・B・ジョーダン(Michael B. Jordan)氏も着用しているなど、文化的な影響もある。しかし、その関心は主に愛好家やコレクターによって動かされてきた。それはノスタルジーであり、ピアジェが文化や時計製造に与えた影響への感謝であり、より小型でドレッシーな時計への転換でもある。これらが混ざり合って、私たちが“トレンド”と呼ぶ混乱を招く大釜になった。

piaget polo 7661 and 7131
初代ピアジェ ポロ 7661 C701(ラウンド)と、7131 C701(スクエア)。

 私は以前、ポロが発売された歴史的背景について記事にしたことがあり、マライカ(・クロフォード)はWatches in the Wild: パリ編で、ピアジェのボルジョー氏とともにその魅力を探求している。

 この記事ではピアジェのアイコンであるポロに焦点を当てる。同モデルへの関心は高まっているが、テキスト化した情報はまだあまりない。売りに出されているポロを見ると、値段はピンキリだ。大ぶりなポロよりも小ぶりなポロのほうが、高い値段が付いていることが多く、コンディションはあまり考慮されていないようだ。

 この記事がそれを変え、潜在的なコレクターがより多くの情報に基づいて購入を決定するのに役立つことを願っている。

ポロの幕開け
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ラピスダイヤルを持つヴィンテージのピアジェ ベータ21。Image: courtesy of The Keystone

ポロの前に登場したベータ21は、ピアジェを含む21のスイスメーカーがコンソーシアムを組んで開発したクォーツムーブメントである。ベータ21自体は上出来だったが、エレガントでシックな超薄型のピアジェには合わなかった。その分厚いムーブメントは、ロレックスの5100やピアジェ、パテックのベータ21のような、さらに分厚いケースに収められた。ピアジェは分厚い外観を好まず、超薄型の筆頭格としての評判にも見合わなかったため、ベータ21では、より薄い時計であるかのように錯覚を起こさせるステップケースを採用した。しかし、それだけでは十分でなかった。

「ピアジェは、私たちが最初から最後までコントロールできるものを望んでいました」とボルジョー氏。そこでピアジェは、独自のクォーツキャリバーの開発を開始し、最終的に1976年に、自社製Cal.7Pを発売した。それは発売と同時に、厚さわずか3.1mmという世界最薄のクォーツ時計となった。その後すぐに、女性用に設計されたさらに小さなムーブメントである8Pが登場した。

 新しい極薄ムーブメントを準備したピアジェは、同じようにシックな時計を必要とした。

 ボルジョー氏は、「米国代理人は特に、ピアジェには日常使いしやすく、若い新規顧客を引きつけることもできる“スポーツシック”な時計が必要だと考えていました」と話す。デイトナ(旧ル・マン)の初期の広告のように、ポロには触れず、ただ“新しくて輝かしい”とだけ紹介したピアジェウォッチの初期の広告を見つけることができる。

piaget polo 7661 and 761
ラウンド型のピアジェ ポロは、34mm(Ref.7661)と27mm(Ref.761)の2つのサイズで発表された。どちらも、ピアジェの新しい極薄クォーツCal.7Pを搭載している。Image: Courtesy of Bonham's.

 1979年、ピアジェは132~136gのゴールドを使用した金無垢時計、“ポロ”を発表。男性と女性をターゲットにした小さいサイズと大きいサイズの両方で展開し、またラウンドとスクエアのオプションもあった。ゴールドはサテン仕上げで、あいだにポリッシュ仕上げのゴドロン装飾を採用し、ポロの特徴的な外観を与えていた。ピアジェの新しいクォーツCal.7Pは、ポロに搭載された。今では愛好家がクォーツを見下すこともあるが、当時はこの新しい技術は違った見方をされていたのである。

piaget polo 8131 square
アートキュリアルオークションに出品された、ピアジェ ポロ。

「当時のクォーツは非常にシックで、7Pは最もシックなもののひとつになりました」とボルジョー氏。超薄型で、裏蓋に隠されたリューズを介して針をセットするため、ケースサイドからリューズの突出がない。つまり、リューズがピアジェの新しいブレスレットウォッチのエレガンスさを損なうことがないのだ。これにより、ポロは時刻を知るための2本の針を備えた、完全に左右対称のブレスレットウォッチとなった。

 標準的な金無垢ポロは、1980年代には約2万ドル(インフレ調整後で現在7万ドル、日本円で約1037万3000円に相当する)で販売されていた。さらにダイヤモンドセッティング、ストーンダイヤル、そのほかあらゆるカスタマイズオプションが、別料金で用意されてもいた。

 この頃、4代目のイヴ・ピアジェがブランドの指揮を執り、エレガントさと華やかさのバランスのとれたブランドとして、さらなる定義づけに取り組んでいた。“ポロはブレスレットウォッチだが、まず前提としてブレスレットである”と、イヴのこのセリフは有名である(フランス語ではもっと上品に聞こえるらしい)。

型にはまったピアジェ ポロ
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ラウンドポロのほうが認知度が高くなったが、一方でスクエアポロのほうが商業的には成功したとボルジョー氏は話す。

「(スクエアモデルの)ブレスレットはケースの形状と完全に一体化しており、ポロの重要な特徴であるブレスレットと時計が完全に調和化した完璧な例となっています」と同氏。この点については、私が話をしたすべてのディーラーやコレクターが同意していた。ラウンドポロが注目される一方で、スクエアポロはピアジェのブレスレットウォッチを最もよく表現している。

michael b jordan piaget polo
スクエアポロ 7131を着用するマイケル・B・ジョーダン。Image: Getty Images

 ピアジェは1979年から1990年までポロを生産していた。1988年、ヴァンドーム・グループ(現リシュモン)はピアジェを買収した。ポロの生産は1990年に終了したが、ピアジェは買収後も数年間ポロを販売していたようである。

 ボルジョー氏の推定だと、ピアジェはスクエアとラウンドのポロを2000から3000本(合計4000から6000本)生産したという。製造数は驚くほど少ないが、メーカー希望小売価格や金無垢ロレックス デイデイトがその約半額で手に入ったことを考えると、それほどでもないかもしれない。

 ポロに含まれていた膨大な量の金と、歴史の大半においてポロの価値がスクラップの価値よりも低かったという事実を考えると(現在でもそれほどの価値はない)、長い年月のあいだにどれだけの数が溶かされたのかはわからない。

piaget polo reference 7661 in yellow and white gold
イエローゴールドにホワイトゴールドのゴドロン装飾を施した7661 C701。ほとんどのポロはYG製であるが、約30%はWGとYGのツートンカラーである。Image: Courtesy of Wind Vintage.

 ポロの約95~98%はクォーツであった。ピアジェのコレクターにはたまらない、珍しい自動巻きポロについてはのちほど紹介しよう。YGのポロが圧倒的に多く、全体の約70%を占めている。残りの約20%がバイメタル(WGとYG)と、10%がWGだ。

vintage piaget polo 7661 and 7131 white gold
ポロのうち、WGで製造された個体はわずか10%に過ぎない。WG製の7661と7131。Images: Courtesy of Rarebirds and Sotheby's, respectively.

 ピアジェは数十種類のサイズ、スタイル、バリエーションでポロを生産した。リファレンスナンバーからは以下のことがわかる。最初の桁はキャリバーを表し、Cal.7Pの場合は7、Cal.8Pの場合は8が多い。次の数桁はケース素材を表す。そして末尾の桁はブレスレットの種類を表す。たとえば、ダイヤモンドのないプレーンな金無垢ブレスレットの場合は“C701”となる。

ピアジェ ポロの知っておくべきリファレンス
最も知名度が高くて重要なリファレンスは、初代の大ぶりなラウンドポロ、Ref.7661 C701(34mm径)およびその兄弟機であるスクエアのRef.7131 C701(25mm径)である。これらと並行して、ピアジェは小型のRef.761(27mm径、ラウンド)とRef.8131(20mm径、スクエア)も発表している。80年代を通じて、ピアジェはほかのサイズやデイト、デイデイトモデルを投入した。ピアジェはまたあらゆる種類のレザーストラップ付きポロも発表しているが、今回はフルゴールドブレスレットのものだけに焦点を当てる。なお2016年にポロ Sが発売されるまで、ピアジェはスティール製ポロを製造したことはなかった。

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