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2025年11月21日の記事は以下のとおりです。

MB+Fより「ホロロジカルマシン NO11」の誕生~

MB&Fのクリエイティブ・ディレクターであるマキシミリアン・ブッサーとデザイナー、エリック・ジルーの発想から、複雑時計製造と建築を融合したハイブリッド、HM11が誕生しました。その曲線は、1960~70年代のネオ・フューチャリスティック建築から着想を得ています。そして2025年の「HM11 アール・デコ」エディションでは、デザイナーのマキシミリアン・メアテンスが、1930年代のアール・デコ様式から明確なデザイン要素を加えています。

HM11 アーキテクト&HM11 アール・デコ~時計と建築の境界線を曖昧にする試み
「住居は住むための機械である」というル・コルビュジエのこの言葉は、長年にわたりMB&Fを導いてきました。なぜなら、同社のホロロジカルマシンは単に身に着けるものではなく、「住まう」ものだからです。それは人を物語へと誘い、ときには異なる時代へ、ときには存在しなかった世界へと連れていきます。初代ホロロジカルマシン N°11は、この理念を文字通り具現化しました。手首の上のオブジェは、小さなデザインハウスとなり、部屋やアトリウム、回廊、そして玄関のドアまで備える存在となりました。結果として生まれたのは、文字盤を備えた従来のケースではなく、偶然にも時を刻む極小建築でした。

HM11 アーキテクト
初代のHM11 アーキテクトは2023年に登場しましたが、デザインの起源は1960年代後半から1970年代初頭にまで遡ります。当時、一部の急進的な建築家たちが、建物に有機的な形状を取り入れ始めていました。それらの住宅は、まるで大地がそれらを吐息のように生み出したかのようで、形態は膨らみ、曲線を描き、視線や身体を包み込むように空間が展開しました。それは理論ではなく、形とスケールによって、もっとも直接的に人間性を宿していました。そこに触れたマキシミリアン・ブッサーは、こう考えたのです。「もし住宅が時計だったらどうなるだろうか?」

その答えが「HM11 アーキテクト」です。中央のフライングトゥールビヨンは、二重ドームのサファイアクリスタルの屋根の下に浮かび上がり、四つ葉の形をした上部ブリッジは、教会建築に見られる高窓を思わせます。その中心から4つの左右対称の構造が外に伸びて、それぞれが「部屋」となりました。4つの部屋は比喩ではありません。それぞれが固有の機能を備えており、ケースを回転させることで着用者の正面にも45度オフセットの位置にも自由に向けることができます。向きは義務ではなく、選択なのです。

「時刻表示室」は本質である時刻を示します。家庭にある時計のような温かみと明瞭さで表示されます。ロッドに取り付けられた球体がインデックスとなり、大きく明るいアルミニウム製の球体がクォーターを示し、小さく濃色のチタン製の球体がその間を埋めることで、外周を完成させています。次の部屋は「パワーリザーブ」です。5つの球体が香箱の巻き上がりとともに大きくなり、最大巻き上げ時には2.4mmの研磨されたアルミ球が現れます。別の部屋には温度計が搭載されています。電子センサーではなく、バイメタル構造を用いた機械式システムです。測定範囲は、−20〜60℃、あるいは華氏0〜140度で、着用者の選択に応じます。最後の部屋は空のように見えますが、MB&Fのバトルアックス(戦斧)のエンブレムをあしらった小さなプレートが配されています。この静かな空間こそが時刻設定モジュールです。透明なユニットを引き出すと「カチッ」と音を立てて扉が開き、回転させることで針が動きます。リューズは、まさにこの家の鍵なのです。

巻き上げはリューズで行うのではなく、ケース全体を基部で回転させることで行われます。時計回りに45度回転させるごとに、指先にカチッという感触が伝わり、バレルにちょうど72分分のパワーが蓄えられます。10回転させることで、合計4日間(96時間)のパワーリザーブが得られます。この感覚は、初めて着用する人を驚かせます。巻き上げの動作は、指先の小さな動きではなく、オブジェそのものをひねる動作になるからです。触れることで深まるオーナーとマシンの絆。それは遊び心に満ちていながら、同時に精密さを感じさせる体験です。

42mmのケースは、「家」というメタファーがどこまで発展し得るかを示しています。グレード5チタンが部屋の外壁を形づくり、アトリウムは、積層された2枚のサファイアクリスタルドームで構成された透明な屋根越しに光を取り込みます。リューズもサファイア製で、直径はほぼ10ミリに達します。この前例のない構造のため、特別な設計が必要とされました。これほどのサイズのリューズでは、特大ガスケットひとつに頼ることはできません。摩擦により操作が不可能になるためです。そこで、二重のエアロックのようにシールを積層させる方式が採用されました。リューズだけで合計8つのガスケットが用いられ、ケースとベゼル周辺のガスケットを含めると、その数は19に達します。

屋根の下に収められたエンジンは自社製手巻きムーブメントで、立体的な構造をしており、ベベルギアを中心に設計されています。フライングトゥールビヨンの振動数は2.5ヘルツ、つまり毎時18,000振動で時を刻みます。耐衝撃システムにより、ムーブメントは、エンジンと下部シェルの間に隠された4本の高張力サスペンションスプリングによって衝撃から隔離されています。これらは単なるワイヤーコイルではなく、硬化スティールチューブをレーザーカットし、クローム仕上げを施した特注パーツであり、航空宇宙技術に由来するソリューションです。
初代HM11は、オゾンブルーまたはローズゴールドトーンの地板とブリッジを備えた2つのエディションで登場し、それぞれ25本限定でした。新種が誕生したことは疑いようがありませんでした。手首の上では建築物のように見え、手に取ると1970年代の宇宙船のように感じられたのです。

HM11 アール・デコ
次のステップはルーツからの離別ではなく、デザイン言語の変化です。HM11 アール・デコは、同じ基盤を保ちながら、別の声で語りかけます。その「声」を担ったのは、ベルリンのデザイナー、マキシミリアン・メアテンスです。彼がこの時代に惹かれたきっかけは学術的なものではありませんでした。16歳のとき、パリ映画館『レックス』を訪れ、その建物が、アール・ヌーヴォー様式のファサードやエントランスが多く並ぶ都市の中で、ひときわ異彩を放っていることに気づいたのです。その記憶は彼の中に息づき、それが本作を導くデザインの基本指針となりました。そこから導き出された課題は明らかでした。Architectのアイデンティティを失うことなく、そのデザインを進化させることです。

HM11におけるアール・デコは、構造とグラフィックによって表現されています。ダイヤル側は、リングとフィールドを分けるツートーン・ロジックを採用。表示部は、初代の円錐状ロッドから、当時のポスターに見られた放射状に広がる太陽光線を思わせるモチーフへと進化しました。温度表示には、この時代から着想を得たフォントが用いられています。メタルワークがそのメッセージを具現化しています。上部から見えるブリッジは、より垂直的でブロックのような力強い佇まいとなり、プロファイルは装飾石材や整然としたファサードのリズムを想起させます。ケース上の小さな屋根の要素は細かな溝によって再設計され、クライスラービルに代表される摩天楼の段状のシルエットを呼び起こします。上から見れば小さな塔のように、横目に捉えれば太陽光線を思わせるモチーフと響き合う垂直のリズムが現れます。

トゥールビヨンブリッジは再設計され、その軸線がベースプレート上のより大きなブリッジと揃うように配置されています。ラインが正確に重なった瞬間、全体に明確な軸が通り、構造をひとつに結びつけます。リューズにも、レイヤー状のポスターアートを思わせる小さな段差が与えられています。これらの変更は控えめですが、この新たな章におけるアプローチを示しています。すなわち、数多くの小さな判断を積み重ね、その総体がコンセプトを支えるのです。

2つのHM11を並べると、違いは明白です。「アーキテクト」は、柔らかな曲線を湛えた、吹きつけられたばかりのコンクリートを思わせます。有機的で、実験的です。「アール・デコ」は、より直立し、垂直線と太陽光線を語ります。構造的で、グラフィックです。ひとつは人間中心の実験のように、もうひとつは都市がそびえ立つさまを──タワーやファサードをミリとミクロンの世界に落とし込んだ姿を──思わせます。どちらも同じ基盤を共有し、どちらも着用者を特別な世界へと誘います。どちらも「住まう」ためのマシンです。

2つの新しいHM11 アール・デコ エディションは、いずれもグレード5のチタン製で、各10本のみの限定です:
- ブルーの文字盤プレートに3Nイエローゴールドトーンのブリッジ、ホワイトのリザードストラップ
- グリーンの文字盤プレートに5Nローズゴールドトーンのブリッジ、ベージュのリザードストラップ

HM11 アール・デコの詳細
あるデザイン判断がどのように形になっていったかを示す、短いエピソードが2つあります。1つ目は、文字盤のフレームについてです。初期のプロトタイプでは、開口部のないフルリングが使われていました。しかし組み上げてみると、視認性に難があり、12時・3時・6時・9時の位置がすぐには分かりませんでした。そこでフレームをスケルトン化し、レーザーによって特定の開口部を設けるという解決策が採用されました。カット後に各針の周囲に確保されたスペースは約0.2mmで、これは人間の髪の毛2本分ほどの厚さに相当します。位置合わせとインデックスの精度は極めて重要でした。生産プロセスもそれに伴い調整され、このリスクの高い工程は最終仕上げの後ではなく、その前の段階に変更されました。その後フレームにはダイヤモンドカットのアクセント、マイクロブラスト、そしてサーキュラーサテン仕上げが施され、明瞭な視認性と引き締まった印象が得られています。

2つ目の物語は、針にまつわるものです。デザイナーは赤いステンドグラスのような効果を求めました。ルビーの使用も検討されましたが、形状的に成立しませんでした。そこで透明エナメルを用いる道が選ばれました。数十回に及ぶ試作の末、直射光下でも背面から光が透過したときでも美しく見える色調に辿り着いたのです。見た目はわずかに乳白色で、明確に半透明です。時計全体で4本の針が使われていますが、それぞれの表示デザインに合わせ、微妙に異なる仕様となっています。

HM11 アール・デコにおける多くの仕事は仕上げにあります。上部ケージブリッジには多くの内角が集中しており、これらは手作業で仕上げられます。これらを一貫して美しく仕上げられる職人はごくわずかです。下部ケージブリッジも同じ設計を採用しています。4本の周辺ブリッジは、研磨面とサテン面を交互に組み合わせ、光が表面を伝って動きます。レンダーではほとんど分かりませんが、実際に手にすると、手首の動きに合わせて真っ先に視線を誘います。

サファイアクリスタルの要素にも注目する価値があります。各溝は専用工具でカットされ、大きな溝は、機械加工による痕跡を取り除くために手作業で仕上げられています。濃いアンスラサイトのメタライゼーションがガラス縁を覆い、ガスケットや構造パーツを視界から隠します。この手法は初代HM11ですでに有効性を証明しており、今回も同様です。ケース裏面は、落ち着いた均一なトーンを得るためマイクロブラストで仕上げ、上面は新たなグラフィックに沿って、研磨面とサテン面が交互に配置されています。段状の外周リングが、このテーマを結びつける目に見える要素です。

これらの選択はいずれも機構そのものの動作を変えるものではありません。挑戦があるのは、製造と仕上げにおいてです。ケースはグレード5チタンのまま、サファイアクリスタルが上面と背面、そして各チャンバーディスプレイを保護し、いずれも両面反射防止加工済み。防水性能は20メートルのままです。内部では自社開発の手巻きムーブメントが2.5ヘルツで駆動し、96時間のパワーリザーブを確保しています。巻き上げは引き続きケース全体を回転させて行います。機能も同じく、時・分、パワーリザーブ、温度表示です。
着け心地について触れることで、全体像がより鮮明になります。その立体的な複雑さにもかかわらず、ケース径は42mmとコンパクト。ストラップラグも兼ねる湾曲した脚部が重量を分散し、巻き上げ時の安定性を高めています。チタン製シェルが軽量化を実現します。

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